・学パロ
最高気温が新記録に到達するんじゃないかって思うくらいに、とにかく暑い。
こんな日に屋上でサボるだなんて自殺行為をする程馬鹿ではない。しかし授業に出るわけにもいかず、空き教室となっている自分の教室で本を読む。
本当は涼しくて本もたくさんある図書室に避難しようと思ったのだが、司書の職員が休みらしく入口は施錠されていた。
やっぱり、暑いものは暑い。この場に居ないクラスメイト達を恨めしく思う。
「あれ、静雄居たのか」
「居たら悪いか」
「そこまで言ってねーだろ。つーかお前、居るなら参加すりゃ良かったじゃねえか」
「…別に」
「もしかして泳げな「ここからプールに投げ込まれたいか?」…冗談だって」
入れるものなら入りてえよ、それに俺は泳げない訳じゃない。ただ入りたくないからここに居るだけだ。門田の髪の毛を見るとまだ若干濡れていて、続々と戻ってくるクラスメイトも然り。どうやらこの教室の中で本気で暑がっているのは俺だけのようだ。
俺らのやり取りを見ていたノミ蟲が笑顔でこっちに来る。何だよこっち来んなよそのまま死ね。
「毎回泳げないからって授業をサボる可哀想なシズちゃんには、心優しい俺からお土産があるよっ!」
「はぁ?何言ってやがる大体俺は泳げ―――っ?!」
アホな事をぬかすノミ蟲を殴ろうと立ち上がった瞬間――ばしゃん。と、身体にかかる、まだ冷たい、塩素の匂い。あぁ、プールの水か――そう認識した時には既に、身体には確実な変化が見える。
くそ、最悪だ。
今日まで暑さに耐えながら水泳の授業を全部休んできたのに、全て水の泡だ。いや、俺は泡にはならないが。
――ちくしょう。
その場に居た誰もが驚愕し、混乱した。
折原臨也が平和島静雄に水をかけた瞬間までは、いつもの嫌がらせと思いながら己に被害がないように遠巻きに観察していた、のだが。
水を被った静雄の身長は二回り程小さくなり、Yシャツは肩までずり落ち、ズボンは重力に負けて床へ落ち、その機能を放棄した。
そして彼の胸には小振りながら形のいい、男には存在しないものが在った。
平和島静雄が、平和島静雄でなかった。
空気が止まった。
仕掛けた張本人さえもこの状況は予想外で想定外。毎回水泳の授業のみサボる彼への軽い嫌がらせのつもりだったのだ。
「…は、……どちらさま?」
「あはは、久しぶりに見たなぁ」
「うるせぇ、新羅てめぇ速くお湯持ってこいよ」
「え、その格好でここに居る気?それはちょっと思春期の青少年には刺激的というか倒錯的というか…ねぇ?」
「…ちっ、仕方ねぇな」
あぁ、苛々する。この体質さえ隠せば平和で静かに暮らせると思っていたのに…。やっぱりノミ蟲は殺すしかねえな、俺の今後の為にも世の中の為にも。
新羅にタオルを借り、未だにざわつく教室から出る。ちらっと取り残された門田達の様子を見る。なんとなく、気になって。
「シズちゃんが、水をかけたら、シズちゃんになって、つまりシズちゃんは―――ちょっとドタチンちゃんと聞いてる?!」
「だから落ち着けって…あと手伝えよ」
「うるさいな!落ち着いてるよ!!」
頭を抱えながら後片付けをする門田にガキみたいに喚いてる臨也。
あのいつも余裕かましてる臨也の困惑している姿なんてかなり珍しい物が見れたから許してやる。ははっ、ざまーみろ!
青春トランスフォーム
(明日からどうするか)
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