反省はあまりしていないが後悔は多少している。なんであの時に声をかけたんだろうか、"違う"って事は直感的に理解していたのに。

いや、後悔しない訳がない、何故ならばあの日の俺の軽率な行動が、その後の平穏をぶち壊す切っ掛けになったから。






「シズちゃんシズちゃん、今日のご飯はなに?」

「うるせえ離れろクソ狐」

「俺をあんな低級と同じにしないでよ」


じゃあ何なんだよと聞けば秘密と嫌な笑顔で返されるのは知っているから聞かない。人を化かすのは狐だって昔から言うじゃねえか。…いや、狸か?

漆黒の髪に赤い瞳、どこまでも人の成りをして、どこまでもこの世の中に詳しいこいつは、確実に人間ではない生き物だ。…生き物にカテゴライズしていいかどうかは甚だ微妙だが。妖怪なのだろうかも俺は専門の知識を持っている訳ではないから分からないが、何よりも奇妙なのは、こいつが人として生活していると言うことだ。


「今日は随分遅かったな」

「仕事してたからね!」

「………仕事、ね」

「人間観察の一貫だよ」

「本当にお前は悪趣味だな」

「失礼だな、俺は人間に対して純粋に興味がある。毎日進化し続ける動物なんてそうそう居ないんだよ?!好奇心って言葉があるだろ?まさにそれさ、俺は人間に好奇心を抱いてるんだ!」


そこからどれだけ人間が好きなのかを聞いてもいないのにべらべらと幼馴染みがのろける時に等しいペースで喋り倒す。
こいつの話は時折良く分からない単語が出てくるから半分以上は聞き流してるが、耳元で騒がれるとやっぱり煩いし、その上後ろから引っ付いて来ているから動きづらいからイライラする。

こいつの言う仕事とやらは情報屋。人間観察をしながら金を稼ぐ、趣味と実益を兼ねた上での仕事らしい。胡散臭い事この上ないが。


「あ!でも、シズちゃんの事は愛してるからね」

「じゃあ離れろ。それで皿をとれ」

「………本気にしてないでしょ」

「食わねえのか」

「………………分かったよ」


渋々皿を取りに行く姿に幼い頃の弟を思い出して苦笑する。あいつもよくヒヨコみたいに後ろくっついてたもんな…。


確かに後悔はしている。
この馬鹿のせいで揉め事にたくさん巻き込まれたし、死ぬ思いもした。
それでもこの生活がほんの少しだけ楽しいと感じてしまうあたり、俺はこいつに化かされてるんじゃないかとも思う。




















日常に溶け込む
(やっぱり、悪くない)