・臨也が病んでる
・臨也がストーカー
・色々狂ってる






確かに、妙だとは思っていた。
誰かに見られているような、常に視線を感じる気がしていた。だが気のせいと言われればそれまでな事で、特に気にしないように過ごしてきた。


通常通り仕事が終わり家に帰って自分の部屋に入ると、言葉を失った。
部屋中に貼られた写真写真写真写真。壁一面は勿論、天井や床にまでも写真が貼られていた。自分自身が写った写真。貼られた写真の中に俺と俺以外の人物が写ったものがあったが、その人物は誰かも分からないくらいに黒く強く塗り潰されていた。



「…は…?」

何なんだこれは。有り得ない、有り得ない、…気持ち悪い。
濃厚な憎悪の色に塗り潰された写真は、俺の部分だけが不自然過ぎる程に綺麗で。感じた事のない恐怖に身体が震え、その場に崩れ落ちそうになった時、誰かに後ろから抱き締められた。


「ひっ!」

「だーれだ?」

耳を疑った。
家には俺以外居ない。確かに鍵が掛かっているんだ、用心のために鍵を掛けた。鍵を掛けたはずなのに、鍵が掛かっていたはずなのに、何で、何で、いつから、


「い、ざや…」

何で、臨也が。

途切れ途切れに思い当たる前の男の名を呼ぶと、後ろの人物は抱き締める力を緩め、顔が向き合う形にした。
姿を見ると、やはり臨也だった。


「当たり!」

にっこりと笑った臨也に計り知れない恐怖を抱きその場から逃げ出そうともがくが、今までに体験した事のない恐怖からか力が上手く入らず、抜け出せない。


「ねぇねぇ、見てくれた?シズちゃんの為に沢山写真撮ったんだ!」

嬉しそうに楽しそうに話す臨也の赤い眼は、どろどろと濁った血のような、それ自体が狂気の塊のような眼をしていて、背筋が震えた。


「嬉しい?シズちゃん嬉しい?」
「ひっ、う、…うれし、い」


彼を否定してはいけない。否定した瞬間に殺される。

揺れる唇で紡いだ本心とは真逆の言葉を聞き、臨也はうっとりと笑った。


「やっぱり!!絶対喜ぶと思ったんだ。シズちゃんが嬉しいと、俺も嬉しいや。ねぇシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃん好き好き大好き愛してる。シズちゃんは?シズちゃんは俺のこと、好き?」

何度も何度も何度も名前を呼ばれる。まるでその言葉しか知らないみたいに。何も言えなかった。


目の前のこいつは、誰だ、俺の知っている折原臨也ではない。俺は目の前の臨也の形をした狂気にただただ恐怖した。



「…ねぇ、何でなにも言ってくれないの?シズちゃん、ねぇシズちゃん好きって言ってよ好きって言って好きって言って!!俺を愛しているって叫んでよ!!」

突然の怒鳴りに身体がガクガクと震え、じわりと涙が溢れ出る。怖い。恐い。殺される。
頬を伝った俺の涙を見ると、臨也の表情は急に柔らかい表情に変わった。


「ああ、怖かった?ごめんねシズちゃん」

あまりの変化に戸惑い、もうこれ以上臨也の顔を見たくなくて瞼を堅く閉じると、べろりと涙を舐められた。ビクンッと身体が派手に跳ねる。


「ねえシズちゃん、俺を見て」

耳元で囁かれるその声は溶けるほどに甘いが、今の俺にとってはそれさえも恐怖でしかなかった。


逆らってはいけない。
逆らったら殺される。
恐る恐る瞼を開けた。




「やっと、俺を見た」

「ファインダー越しだから目が合わなくて苛々したんだよね。シズちゃんってば別なヤツの事ばっかり見てるからさ、そいつら全員処理しようかなって思ったんだけど、ほら俺って人間大好きじゃん?あ、心配しないでねシズちゃんは特別だからね!シズちゃんシズちゃんねぇシズちゃん好き好き好き大好き愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃん好きって言って?愛してるって言って?」


逆らってはいけない。
逆らっては、いけない。


「す、き…だ、あい、してる」


目の前の狂気は嬉しそうに微笑んだ。




















溶けて堕ちる
(余りに歪んだ純愛)