だからほっとけない
「おい!危ねえぞ!」
新学期早々、ふらふらしたヤツを見掛けて慌てて手を伸ばした。
足元には立派な側溝、きっと捕まえてなければそっちに雪崩れてたと思う。確実に。
「あ…おはよう宍戸」
「おはよう、じゃねえ。何ふらふらしてんだよ」
「いやー貧血と寝不足とその他モロモロの所為だね」
「どうせ徹夜でゲームしてたんだろ。見たぞ、お前並んでたろ」
そう彼女に言えば「うっ」と言わんばかりの表情。そうだ、やっぱりそうなんだろ?
予約は当然だが整理券を持ったヤツじゃねえと購入が出来ないというもの。某社が出した新作のゲーム。
うっかり俺は予約すんの忘れちまってたけどたまたまその付近通り掛かって見たんだよ。長蛇の列に並ぶお前をな!
それがついこないだのことだからおそらく、そのモロモロだか何だかはゲームの所為だろうが。
「おーう…まさか見られていたとは」
「それの所為だって認めるのか?」
「……そこまで見られてたら認めざるを得ないなあ」
ふう、と溜め息吐いて首を振る彼女にとりあえずゲンコ一発。
別に悔しいからじゃねえ。限度ってもんがあるだろうが。新作買う度にふらふらしやがるからすぐに分かる。
「地味に痛いでござる」
「学習機能ねえからだろ。自業自得だ」
「でもさー面白いんだよ?」
「そりゃ…分からなくもないけど」
買ったばかりでテイション上がる気持ちも分かるし、最短でクリアしたい気持ちも分かる。
で、その後にサブイベだとか色々やって…みたいなやり方は俺とほぼ同じで共感はするぜ勿論。けどよ、
「何もふらふらするまでやんなくてもいいだろ」
どうしようもなくクマは出来てる。肌色も少し青白くなってる。唇もカサカサ。
ほら、一応女だろ?気にする部分だとは思うんだけどコイツの場合、それよりゲームが上回ってるんだろうか。
と、脳内で疑問を抱いてりゃ彼女が不意に顔を覗き込んで来て、にこにこ愛想振り撒いて笑ってやがる。
「心配してくれてんだ」
「はあ?」
「イイヤツだね宍戸は」
覇気の足りねえ顔色で何浮かれてスキップ…とは見えないステップ踏みながら鼻歌歌ってんだか。
コイツの一喜一憂がよく分かったもんじゃねえ。少なくとも気を付けろって毎回毎回言ってやってんのに聞きやしねえし。
ある意味、泣き虫長太郎と変わらないくらいハラハラするし、心配ばっか掛けやがるなコイツ。
ちょっとくらい長太郎みたく言うことを聞くならまだしも…こっちは全然と言っていいほど言うことは聞かないんだけどな。
こっちが溜め息を吐く頃、アイツは少し前方で下手なスキップで進んでく。
よく分からない鼻歌。歌になってるようには聞こえない。とりあえず機嫌は上々だってのは分かった。
「お前なあ、歩いてねえと次は電柱にぶつかるぞ」
そう叫べば不意に鼻歌も下手なスキップも止まってくるり、彼女は振り返って笑った。
「ぶつかりそうになったら宍戸に助けさせてあげよう」
「……何だそりゃ」
「宍戸の超ダッシュ、期待してるよー」
と、彼女はそれだけ言うとまた下手なスキップ、歌ではない鼻歌を奏でながら前を歩き出した。
あまりにも下手すぎるスキップの所為で時々足がもつれそうになって、それを後ろで見てる俺がやけにハラハラしてる。
徹夜明け、ゲームのしすぎで少しふらふらした彼女。結構マニアックで他の女とは違って俺から見ればかなり浮いてる存在。
「誰が助けるかよ!」
「ケチー」
だからなのか、そんな理由でなのか、全然分かったもんじゃねえけど不意に思う。彼女だから――…
-だからほっとけない-
2010.04.19.
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