テニスの王子様 [LOG] | ナノ
続きはあとで


「おはよう忍足」
と、張り出されとったクラス表をぼんやりと眺めていた俺に声を掛けたのは女。
まあ…ようあることやし馴れ馴れしいんも全然気にせんと振り返るけど、すまん。全然知らんし覚えとらん子やわ。
勿論、そないなことは顔に出したりせんと適当に挨拶するも、どーもその子は俺に用があるらしい。にこにこして何や話題を振ってきよる。

「そういやクラス一緒だったよ。何かあったらノート見せてよね」
「あー…それは俺次第やけどな」
「あはは。やっぱそう言うよね。いっつも岳ちゃんばっか贔屓だもんね」

いや、そら贔屓とちゃうん。岳人が勝手に借りてくだけで俺は許可しとらんし。
そう突っ込みを入れると同時に浮かぶんは「で、自分誰やったっけ」っちゅう残酷な突っ込み。勿論言えへん。

知っとる子…っぽい。どうも知っとる子っぽいけどこんな子おったっけか?
随分とさっぱりしとるショートカット、ハキハキした口調、かるーくやけど施されたフルメイク。口元はリップやろな。
どっちか言うたらハッキリ分かるくらいのフルメイクのが俺の傍には多いんやけど…この子めっちゃ軽いわ。
誰やったけ。ほんまにこないな子とかおったけか?とマジマジ見よればフッと顔を背かれてもうた。

「いやー…あんまガン見しないで欲しいなあ」
「あ…すまん」
「やっぱ短すぎたかな。昨日切ったばっかで私も見慣れないんだけど」
「そんなことないで。よう似合おうとるし」

ん、これは事実やで。ただ前の姿とか全然知らへんけどな。
なーんて、思うとっても言えへんけどとりあえず似合うとるっちゅうんは本音やから笑顔で言うたれば彼女も嬉しそうにした。
「有難う」て言うて笑おてくれて…まあ、罪悪感が沸かんわけでもないけどしゃーない。と、その時やった。
急に彼女が俺の背の向こう、誰かに手を振りよったからつられて振り返れば…岳人が居た。

「おーい岳ちゃん!」
「おー!何だお前マジでイメチェンしてんじゃん!」

……ふーん、ほんまに岳人と友達なんや。
彼女の短い髪撫でて遊んで、彼女はそれを少し嫌がるフリして避けて。うん、まるで子犬が2匹戯れとるカンジ。
ちょお置いてけぼりなカンジやけど、これでどうにか彼女のこと知れることが判明したわけで。後でこっそり岳人に聞いとかな。

「結構イイじゃん。なあ侑士もそう思うよな」
「……ああ」

ちゅうか、その件もうやっとんねん。

「でもマジ激変してっから誰か分からねえヤツとか居るんじゃね?」
「あー…うん、さっき宍戸騙しに行ったけど鳳くんに気付かれて散々だった」
「あーね。宍戸も運いいな」
「あれ絶対鳳くん居なかったら面白かったのに…で、跡部にはすぐ気付かれた」
「あー跡部は無理だろうな。精々騙せるのは宍戸くらいだろーな」

……ヤバイ、冷や汗出るんやけど。
この流れやとしれっと岳人に聞き辛うなってしもうとるやん。ちゅうか宍戸と同格とかどないすんねん俺。
ちゅうか、ほんまに誰やろ。気付かれんくらいイメチェンしたっちゅうこの子、ほんま誰なん?

「あ、まだ滝騙してないや」
「お!それ微妙だけどやってみるか?」

滝が微妙て…そんなん言うたら俺の立場ないんやけど。

「うん。やってみよーかな」
「よっしゃ!なら行こうぜ書記長!」

書記長?

「ラジャ!じゃーね忍足!」

バタバタ、と走り出した彼女は元気いっぱいな笑顔を振りまいて岳人の後を追ってく。
書記長…書記長て、生徒会室におる役員で見た目堅物、中身やんちゃのアイツのこと、か?
跡部も見た目に騙されて書記にしたんはええけど、破天荒すぎて頭抱えてまうっちゅう…アイツのこと、か?
嘘や。ロングの髪は何処いった?って昨日切ったんやったな。で、化粧とかめんどい言うとったやん!

「……女は化けもんっちゅうんはほんまやったんか」

開いた口が塞がらん。新学期早々、何がしたかってんアイツ。
ちゅうか…騙しに騙しよったんやったら俺が全く気付いとらんかったってこと、気付かれとるんやないか?


それについてはあと数時間後、笑いながらやって来た跡部によって知ることになった。



-続きはあとで-

2010.04.19.
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