テニスの王子様 [LOG] | ナノ
言わせてみたい


付き合い始めてどのくらい経つだろうか。
長い付き合いだからお互い、色々と知り尽くしているということもあって…所謂「マンネリ化」とでも言おうか。
いや、その表現は違うな。彼女に対して不平不満があるわけではない。退屈してるわけでもなく刺激が欲しいわけでもない。
ただ「慣れすぎた」と言われたならばそれも一理あるが、面白いことにその「慣れ」も決して悪いものじゃない。

「永四郎、茶。ご要望通りのヤツ」
「有難う御座います」

一緒に暮らしているわけじゃないが、こうして俺たちはどちらか一方の部屋に偏っては同じ時間を過ごすことが多くなった。
仕事終わりに簡単な一行メールを送っては互いの居場所を確認して、特に用事がなければ一緒に過ごす。
職種はもちろん、職場も違うわけですから、どちらかが先に帰宅していた場合はその家へ向かう。
こんな単純なルールの下、今日は俺が彼女の部屋に居る。

「ねえ、永四郎」
「何です?」
「イイ加減さ、ココまで仕事持って来るのやめない?」

そこは決して広い部屋ではなく、シンプルな構造で一間しか部屋はない。
まあ、自分の部屋も似たり寄ったりの部屋ではあるけれど、異性ということで物もそこそこ占領している。
そんな場所で彼女の化粧品を押し退け、パソコンを開いて仕事する俺もどうかと思いはするものの…こちらにだって事情はあるわけで。
そもそも、彼女は分かってない。何故、わざわざ仕事を持ち帰って来るのか、ということ。
今時、定時で終わって問題のない仕事なんかない。あまり良くない状況ですからね、仕方なく誰もが遅くまで仕事をしてる。
勿論、俺も同じことで定時に終わり切れない仕事を持っていて、だけど会社で残業などしたくはない。
そう…「会社で」残業したくない理由を、彼女は分からずにいる。

「無理です」
「……随分あっさり答えたわね」
「無理なものは無理ですから」

呆れ顔の彼女に、俺は自分から理由を言ったりはしない。
彼女が「何故?」と聞かないから、ということもあるけど彼女もまた「持ち帰って欲しくない」という理由を明かさないから。
いや、正確には…こちらは分かってるけど彼女が直接口にしないから。

「寂しいんですか?構ってもらえなくて」
「誰もそんなこと言ってないわよ」
「終わったらちゃんと構ってあげますよ」
「いや、いい。明日早いし」
「そうなんですか。でもちゃんと起こしてあげてるじゃないですか」
「……それ不可抗力だし」

お互いのベッドがシングルだから、と言うならばセミダブルのベッドを購入してもいいかとは思いますが残念ながら置くスペースはない。
個人的には今の現状で十分だから文句はないから気にしたことはないんですがね。
どうやら、俺の時間に合わせて起こされてしまう彼女には不服ということでしょうか。

「嫌なんですか?」
「何が?」
「俺に抱かれるのが」

グッと飲みかけたお茶を変な器官に流し込んでしまったのか、
返事も出来ず苦しそうに咳き込む彼女の背を撫でながら俺は笑った。
変わらない、ストレートな言葉に弱い鈍感な君。
これだから、彼女じゃないとダメなんだ。

「大丈夫ですか?」
「バッ、アンタ、の、所為…ゴホゴホっ」
「なら責任を取りましょうかね」

仕事の片手間に話してたから少し遅くなってしまいましたが、ようやくある程度の区切りは付いた。
出来上がった書類は上書き保存して、用済みになったパソコンをシャットダウンさせる。
これから先の時間は、何も言わない君に捧げましょう。いつものように。
そう…これが「会社で」残業したくない理由。

「仕事を持ち帰って欲しくない理由も含めて…聞いてあげましょう」
「え、永四郎?」
「終わったらちゃんと構ってあげるって言ったでしょう?」

何か必死で言葉を放っている彼女を捕まえてベッドに上げるのは簡単なことで、たった一言、ある言葉を告げれば大人しくもなる。
知り尽くしているからこそ成せることがあって、知り尽くしているからこそ成せないこともあって。
ここまでになるまでに費やした数年は決して無駄ではない。

「嫌ですか?」

もう一度、この体勢で分かっていて聞く。きっと彼女は…言わずにはいれないだろう。



-言わせてみたい-
シュガーロマンス「邪な5つの想い」より

2009.11.27.
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