拍手SS/丸井ブン太
甘いもの全般が大好きな彼にとって今日という日はパラダイスだ。
何処へ行っても貰いものばかり甘いものばかり。
とにかく貰いたい放題という特別な日で…私としては面白くない。
とはいえ、可愛らしい女の子たちの夢を奪うことも出来なければ、
ブン太のパラダイスデーを潰すわけにもいかないわけで。
「……ストレスだ」
「はあ?どうしたんだ急に」
「いや何でも…あ、ほら、また呼んでるよ」
この日に限っては先輩も後輩もない。
ただただ好きな人にソレを渡す、そういう日になったのはいつからなのか。
例え、その好きな人に彼女が居たとしても気持ちをぶつられるという恐ろしいイベントでもある。ブン太もまたしかり、だ。
そんなイベントに乗っかった後輩をマジマジと見つめて牽制するのも申し訳なくて私はただその方向を見ることなくぼんやりする。
溜め息混じりに、嫌味すら言いたくなるけど今日だけはグッと堪えて見守ると決めてるんだ。
しょうがないもん。今日はバレンタインだもの。
それがどういう日でどんだけ女の子が頑張っている日か知ってるもん。だから…邪魔はしない。
私は幸せ者なんだ。好きな人と両想いでもう片想いじゃない。
彼を本気で大好きな人が居たとしても、ブン太が私を選んでくれているならそれが全てだ。
此処で告白しても、彼が揺れない以上はきっと……だから、見守るって決めたんだ。
「はあ…」
とは思っていてもそれってやっぱりストレスで溜め息が出る。
「まーた溜め息吐いた」
「あ…」
「俺、チョコとか好きだけどよ、お前の方が好きなんだぜ?」
「……は?」
「だーかーら、」
パッと見せた手の中、そこには何も無いブン太の掌が見えているだけ。
「ずーっと断ってた。だから豪華なのくれるよな?」
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