落書き教科書
「ごめんなさい!!」
あれから数日も経たないうちに仁王が言った。
柳生くんが例の落書きに気付いて犯人を捜している、と。凄い剣幕でブチギレしているとも聞いた。
黙ってても良かったのかもしれない。だけどそうもいかずに私は彼の元へとやって来た。手土産は...購買のジュースで。
「.........はい?」
「私なんです!教科書の落書き...」
「落書き?」
「あの、仁王に借りた教科書が柳生くんのだって知らなくて...」
昼食を終えて教室で静かに読書をしている柳生くんにひたすら平謝りをする私。
ススッと献上品であるジュースを突き出して...でも顔を見るのはさすがにまだ怖くて出来てない。
「本当にごめ、」
「待って下さい」
「.........はい?」
顔を上げて、と言われるがままに顔を上げれば呆れ顔の柳生くんが私を見ている。
決して怒ってはいないけど...その表情は表情で不安になる。
「俺の教科書に落書きなどありませんでしたよ」
「.........へ?」
「騙されていませんか?仁王くんに」
「え?でも、名前...」
教科書の後ろに確かに書いてあった。"柳生比呂士" と。
そう彼に告げると眼鏡を上げながら「手の込んだことを...」と溜め息混じりに呟いた。
「え?じゃあ、あの教科書は...」
「ええ。おそらく仁王くん自身の、」
嘘。え?本気で?
わざわざ他人の名前を書いてまで悪戯したっていうの?あのくそ詐欺師!
「じゃあ、柳生くんの、」
「いい加減になさい、仁王くん」
「.........え?」
同じ声が、もう一つ。
真後ろを振り返ると似た表情を浮かべた柳生くんが、もう一人。
「それにあの落書き、君の仕業だったんですね仁王くん」
「.........あーあ、タイミング悪いのう比呂士」
え?仁王?
「すみません。志月さん。仁王くんがまた悪ふざけを...」
「.........柳生、くん?」
「はい。向こうは仁王くんですよ」
振り返った先、眼鏡を外した仁王が柳生くんへの献上品を飲みながら笑っていた。
何、今の。え?この二人ってそんなに似てたっけ?
「あなたのやり方に文句を言うつもりはありませんが、嫌われますよ仁王くん」
呆然とする私。
「絵心ある落書きだったので許します」と言った柳生くん。
ただ仁王だけは何とも言えない表情でペロッと舌を出して私を見ていた。
2016.06.08.
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