二人の帰り道
"この話の続きがしたいから…部活が終わるまで待ってて欲しい"
柳くんは、私の返事も聞かずに部活に出て行った。
刻々と迫る部活終了時間。
上昇し続ける体温と心拍数は、時間に比例してる。
約束は一方的だけど、破ることは出来ない。
だから私は…校門手前にある木陰のベンチで待っていた。
彼が、ココへやって来るのを…
「志月」
頭上から響いた声、突き抜けるような衝動。
一気に全てが登り詰めたような…そんな気がした。
「待たせてすまなかったな」
「いえ…平気です」
「予定ではもう少し早く終わる予定だったんだがな」
目の前に彼はいて、声が響いているのに…
どんな表情をしているのかも想像がついているのに…
顔が上げられずにいる自分が、少しだけ情けない。
「いつまで座っているつもりだ?」
「あ……」
慌てた。何も考えずに体を起こそうとして…
「おっと……」
柳くんの顎に、頭突きをかますところだった。
素早く彼が避けたから、良かったけど。
「ご、ごめんなさい」
「いや…当たってないから平気だ」
顔を上げた時、微笑んだ彼と目が合った。
優しそうに微笑んでて…無意識に自分の頬に触れた。
きっと、リンゴより赤くなってる。
「とりあえずは歩かないと、お互い帰宅が遅くなるぞ?」
「う、うん」
動揺しているのは私だけ。
柳くんはいつものように平然としている。
平然と歩いて、私だけが取り乱してるのが恥ずかしい。
「意識されると結構言いづらいものだな」
少しだけ前を歩いている彼が、ぽつりと言葉を洩らした。
歩調は次第にゆっくりになって…止まった。
「こちらの道を通ろうか?」
「あ…うん」
少しだけ遠回りの並木道通り。
新緑のイチョウの木々が真っ直ぐに並んでいる。
長そうな直線だけど…きっと短い。
それがお互いにわかっているからか、歩調が遅くなった。
会議室でのギクシャクとは少し違う空気。
言葉を紡ぎたいのは、きっと私も彼も同じだろうと思う。
自惚れじゃなかったら…わかってるコト。
「や、柳くん。あの…」
2年間、ただ会議室でしか接触はなかった。
いつの間にか祈るようになっていた。
また同じ委員会になれますように、今度は同じクラスになれますように、
半分半分で叶ったり叶わなかったり…
「誘ったのは俺だから、俺からの話をしないとな」
私の言葉は、彼の声に遮られた。
その場に立ち止まって、振り返った彼の表情は何も変わらない。
「よくよく考えれば、この3年間、ずっと同じ委員会だったな」
「…うん」
「1年の頃は自分で精一杯で、一緒だというくらいしか記憶にない」
「うん。私も同じ…かな」
「だけど次の年も同じ委員会に志月がいた」
「…うん」
「そして、今年も……」
半分は偶然、半分は必然。
今年だけは期待して、選んだんだから。
「クラスこそ一度も同じにはならなかったが…」
木々がざわめいて、風が、吹いた。
やわらかな風と共に、前にいた影も動いた。
二つの影だったはずなのに…一つに重なっている。
「すまない…回りくどいと最後まで言えない気がした」
手に汗を掻いているのは私だけじゃない。
鼓動がひどく高鳴っているのも私だけじゃない。
影が重なって、初めて知る事実…
「もっと近くに…いつの間にか、そう思うようになった」
長い時間、影は重なっていた。
影すら細くなる頃、ようやく言葉が見つかって…
無意識に回していた手を離した。
「私は、もっと前から…そう思うようになってたよ」
御題配布元 BERRYSTRAW 学園ラブ2 5のお題「二人の帰り道」
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