2006/氷帝三年R誕生祭
死ぬ間際の夢が叶うようにと願った。
ゆっくりと抜けていく力。眩暈に似た感覚が静かに浸透してゆく。
人の終わりはあっけないモノ。何よりも儚く散りゆくモノ。
誰にでも付き纏う最後の瞬間は、自分でも選ぶことが出来る。
それを自分自身の身で証明しようとしていた。
深く 溺れる 〜Another end.〜
ふわりふわり、夢の中で浮遊する自分の姿。
楽もなく苦もなく、だけど左手だけが強烈なまでに熱を持っていた。
人生を振り返るほど長く生きたわけでもなく、未練しか持ち合わせていない。
だけど、後悔なんかはなくて…ただ何処かを浮遊している。
死の間際に見る夢、それがこんなにも穏やかなモノで…
急に寂しさばかり、どんどん込み上げていく。
最後の最後、あの人の夢が見たかった。
あの人…あの人ってどんな人だったっけ?
人よりも大きなインパクトがあって、カッコよくて……
それなのに、顔を、思い出せない。
遠くで見ていた頃、あまりにも遠すぎてよく見えなかった。
遠かったからこそ、誰よりも綺麗に美化されて見えていた。
近づけば近づくほどに…逆に遠ざかっていく……
―― ゆい。
名前を呼んでもらったことなんかあったっけ?
いつも適当な言葉で呼びつけて、適当に交わされていたような気がする。
外面ばかりが良くて、偶然に鉢合わせた私の家族の前。
「ゆいさんとお付き合いさせて頂いています」
なんて…変にかしこまって挨拶をした日、あの時は少し嬉しかった。
あの時だけか唯一、幸せを噛み締めて歩くことが出来た瞬間。
例え、気まぐれだったとしても嬉しくて、涙を堪えて歩いた。
"愛されている"そう思える瞬間だった。
―― ゆい。
聞きたかったこと、沢山あったような気がする。
言いたかったことも、沢山あったような気がする。
もっと知りたかったこともあるし、一緒にいたかったとも思う。
ただ、それがあまりにも残酷すぎて逃げ出したかった。何処か、遠くへ…
「早く…目を覚ませよ…」
遠くに飛ばしかけた意識が拾った一つの言葉。
真っ暗な世界に零れ落ちた、冷たい雫。
一歩ずつ一歩ずつ、近づいて触れたその雫。
それは確かに冷たかったはずなのに、今はやけに温かい。
左手の奥、強烈な痛みが戦慄となり走っていく感覚――…
「……ゆいッ」
最後の最後で夢を見れるとしたら…貴方の夢が見たい。
目覚めた時、真っ白な部屋で貴方と一緒にいる夢を…
「……景、吾?」
「この……馬鹿がッ」
最後に見たかった夢、嬉しかった。だから泣きながら笑った。
もう、死んでも構わないほどに。
「勝手に行くのは許さない…許さないからなッ」
The worst end.
お題配布元 ・・・ clair
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