2006/氷帝三年R誕生祭
言わずとも理解してくれるだろうと信じていた。
アイツが本心を明かすことをずっと願い続けていた。
今となっては叶わぬ夢、自らの不甲斐なさを呪うばかり。
俺が求めていた結果、それは果てしなく現実から遠いもので…
感情を荒立てて…泣くことすら出来ずにいた。
深く 溺れる 〜The worst end.〜
ヒソヒソと、背後から小さな声で俺を責め立てる声。
周りの人間が涙を流すなか、俺だけがただ浮いているかのよう。
写真の中の彼女は綺麗な微笑みを浮かべている。
初めて会った時に見た、俺が一目で好きになった笑顔…
俺の傍で、一度も見せてはくれなかった表情。
悔しくて、どうにかしたくて…明らかに間違えた方向性。
それが彼女を苦しめただけでなく、その命までも……
俺の涙が枯れ果ててしまうまで泣いたなら、お前は許してくれるのか?
俺がお前と共に旅立つならば、お前は笑ってくれるのか?
この地に残された俺は…どうすればいいんだ?
得られる答えはない。返事もない。応えてもくれない。
俺があまりにも未熟で、素直じゃなかった結果。
こんなコトを…消えてしまうコトを望んだわけじゃない。
ゆいの家族は俯き、声を殺して泣いていた。
こんな親不孝、俺のためにすべきじゃないことくらいわかっていたはず…
わかっていて俺を選んだのか?こんな、最低な俺を。
今更、自分のしたことを振り返って反省して、それじゃ全てが遅すぎる。
「……」
弔うために祭壇に近づいて、誰もが手を合わせすすり泣く。
一人一人、また一人…学生服の生徒たちが一歩ずつ進む。
列が一段ずつ前に進んでいくなか、一人の少女が真っ直ぐやって来た。
俺の顔を真っ直ぐに見据えて、その目には底知れぬ哀しみを抱えて。
ハンカチを手に泣きながら、ゆいと似たその表情で…
「跡部、さん」
「……祐希」
ゆいが誰よりも可愛がっていた少女。
目の前にいる彼女は、何度か顔を合わせたゆいの実妹…
姉妹だからよく似ていて当たり前だった。
その顔、その仕草…俺は今更、失くしたモノの大きさを知る。
「貴方に手を合わせて欲しくない」
今更、似た顔の少女に責められて泣かれて…
コトの大きさ、全ての非が俺にあることを知らされる。
「ねぇ帰ってよ。この場にいないで。お姉ちゃんの顔、今更見ないでッ」
誰もが影で囁くなか、彼女だけは俺を強く責め立てた。
激しいまでの感情をぶつけ、俺をその場から押しのけていく。
一歩ずつ一歩ずつ、祭壇から遠ざかっていく…
彼女のため、泣くことすら出来ない薄情な俺をもっと責めてくれ。
償うことすら出来ぬ罪、頭から全身に降り注いでくれ。
自分のためだけに動いた俺を、罪の意識で覆い被せてくれ――…
"深く溺れるほどに貴方を愛してます。"
最後の最後、残されたメッセージ。
俺だけに向けられたこの言葉の意味、今ならわかる。
取らなければいけなかった俺の行動は、きっとゆいの見たかった夢。
自分の命を賭けてまで見たかった夢。
どうして俺はおめおめと、こんな会場に佇んでいるのだろうか。
もう会えない。話も出来ない。許しも…得られない。
もがかなければ水面に浮かべる。
抗いさえしなければ浮かぶことが出来る。
だけど、必死でもがいて深く深く溺れていく…
ようやく涙が零れた。
不甲斐ない自分を呪う、この涙。
その涙に呑まれて俺は溺れよう。哀しみの果てに…
Another end.
お題配布元 ・・・ clair
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