2006/氷帝三年R誕生祭
最初は気付かなかったけど時間が経つにつれて思うようになった。
沢山の話をする中で、時として彼に疑問を持つことがあった。何処か必死で大人ぶる姿。
私より賢くて知性に溢れてて格好良くて…だけど隠し切れないものは溢れた。
ずっと確信は持てなかった。でもある日、偶然に見つけた。
雑誌の表紙に書かれた名前。ページをめくれば私の知らない彼がいた。
貴方がどうであれ、私は貴方を好きになる。
最初は絶句した。ただただ驚いてそのページに釘付けになった。
大人びた表情は私に見せる顔とよく似ていたけど、何処かあどけなさが見えるのはきっと周囲の環境だろう。
相応と呼べる表情がどちらなのか、判断出来ずに私はただただそのページを眺めた。
驚いた、言葉を失った、だけど幻滅はしてない。どうしよう、ただ可愛らしくて愛おしく思えるようになった。
私の論文を読んで誤字を指摘してくれた。内容の確認もしてくれた。
いいとか悪いとか、読みやすいとか分かり辛いとか、そんな指摘を沢山してくれた。
そんな彼に少なくとも私は惹かれて止まない。そんな彼が好きだと思ってる。
こうして気付いて気になるのは確かに年齢差だけど、それ以上に彼はそんなものを感じさせないものがあった。
それはきっと"跡部景吾"という人間だからこそ。そう思えた。
私の知らない少しだけ子供の部分の景吾を知りたくて、毎月買ってる雑誌。
それをわざと部屋に置いた。彼が自分の口で言えるように…と。
「……ゆい」
ごちゃごちゃとした部屋の中で響く景吾の声。
言い出しにくそうにしてる景吾の姿、それは見えないけど自分から口にして欲しい。自分で告げることで大人に飛躍して欲しい。
私は嫌わない。いつかは無意味になる年齢差なんて気にしないから。
「悪い。騙すつもりはなかったんだ」
「何か隠してるの?」
「あのな……」
景吾らしくない。この歯切れの悪さ。少しだけ可笑しくて、少しだけドキドキしながら応援する。
"大丈夫、大丈夫だよ"と、成長過程にある背中を撫でながら。
雑誌を見つけるまで気付かなかった。この背中はまだ小さい、ということ。
「俺の年齢…最初に言ってたのと違う」
「うん」
「まだ、義務教育の範囲だ」
正確な数字は口にしないけど、それだけで十分。
日本の義務教育期間は9年間だって、中学までだって、ちゃんと知ってる。
少しだけ遠まわしな言い方だけど、それが精一杯の言葉だと解釈して頷いた。
「よく…言えました」
綺麗な髪を撫でて、イイ子イイ子と甘やかしてみる。
こんなのは景吾には合わないかもしれないけど、今の景吾にしたいこと。
背伸びなんかする必要がないって、知って欲しいから。
「言ったでしょ?景吾だから、私は好きなんだよ」
今は距離を感じるかもしれない。それは私も同じコト。
だけど、いつかは大人になり、対等な社会人へと成長していく。
今、私たちの中にある距離というのは、それだけのモノ。
時間が解決してくれて、どうでも良いものへと変化していくことだから。
「……最初から知ってたんだな」
「最初じゃないよ?途中から」
「俺の決心って…かなりダッセーな、俺」
苦笑いをしながらも赤面する彼。いつもと違う一面を見た。
お互いに笑って、より距離が近づいた気がした。
「大学卒業まで七年あるが…待てるか?」
まだ子供なのに、大人びた言葉。まるで、プロポーズのような。
与えられた猶予は長いけど、彼にその気があるのならば…
「七年後、私はオバサンになるわよ?」
"その時もゆいはゆいだから問題ない"
彼はハッキリそう言い切った。穏やかな日差しが包み込む部屋の一角で…
お題配布元 Relation(現AmR)
企画提案元 氷帝三年R誕生祭
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