隣の席
「今度もまた、委員会議で会おう」
彼がそう言ってくれたから、勇気を出してクラス委員に立候補した。
もしかしたら、彼もクラス委員になっているかもしれない。
あくまで予測・推測だけど…これに関してだけは、理屈ではない必然を感じていた。
選出されるクラス委員は男女一名ずつ。計二名。
誰も嫌がってなりたがらない枠に、私は自分から入った。
柳くんと同じ部の部長、幸村くんと一緒に。
「部長しながらクラス委員って大変だよ?」
クラス代表という名の雑用係。
テニス部部長という肩書きを持つ幸村くんの身を案じる。
「平気だよ。それに誰もしたくなさそうだったし」
早速、委員会に召集された私たち。
一緒に会議室へ向かっているところ。
普通は単独行動を取って向かうだろうけど、
私たちは比較的に仲が良く、並んで一緒に歩いていた。
「志月も面倒な仕事、よく引き受けたよね」
「あ、うん…」
"柳くんがやりそうだから"
なんて理不尽なコト、言える筈がない。
「とりあえず、1年間よろしくね」
ふんわりと微笑む彼に少し安心感を覚えた。
1年の時の片割れは、かなりドン臭くて色々と苦労した。
2年の時の片割れは、何かにつけて手伝うことをしなかった。
だから、見兼ねた柳くんが私の手伝いをしてくれて…
「…やぁ」
「あれ?蓮二も委員になったの?」
理屈ではない必然、予想の的中。
幸村くんの先にいた柳くんを私も見た。
「ああ。志月も、これで3年連続同じだな」
「うん。今年もよろしく」
数日前の、クラス替えの日の会話を思い出す。
似たような言葉を交わして、少しの時間を共有して…
約束とも言えない様な "約束" を交わした。
「蓮二と志月って仲良かったんだ」
表情とは裏腹に驚いた様子の幸村くん。
確かに私と柳くん、普段の接触は見当たらない。
今までクラスは違うし、部活だって私は入ってないし。
結びつかないのも頷ける。
「俺から言わせてみれば、精市と志月が仲が良いのも意外だな」
そう。幸村くんにしても同じ。
たまたま、去年もクラスが同じだっただけ…
今回だけは運が良いのかもしれない。
仲良く出来る人が二人もいる。
「そろそろ入ろうか」
「あ、会議始まっちゃうね」
つまらない会議も、少しは楽しく出来そうな予感。
クラス別に指定された席に、私と幸村くんは並んで座る。
そして、その隣に…柳くんはいた。
初めての体験。隣の席に座る柳、くん。
この一角だけ豪華になってしまっている。
「…つまんないね」
ぼそっと、頬杖をついた幸村くんが呟く。
昨年に引き続く議題に関して、運営委員の人が話している。
誰も聞いていないだろうに懸命に。
「寝ちゃいそうにならない?」
「なるなる。でも、まだ始まったばかりだよ?」
意外と不真面目な幸村くんの態度に笑った。
こんな人だったんだ、と。
「あ、見てみて」
こっそりと指を差された方向。
私を挟んだ向こう側にいる柳くんがいた。
「真面目にメモ取ってるよ」
「そうだね」
「あとで蓮二に聞けばいいから寝ちゃおっか?」
幸村くんの冗談に笑いながら、細々と会話を続けた。
途中に数回、教師に怒られて…
あまりにも改善されなかったから、罰当番まで頂いてしまった。
そして、会議は終わった。
「あーあ。罰当番喰らっちゃった」
「ちょっと会議を無視しずきたからね」
罰を喰らっても、お互いに怒りはない。
ただ笑って、会議室から人がいなくなるのを待った。
罰当番は会議室の清掃と施錠。
黒板を綺麗にして、机を元に戻すだけの清掃。
「幸村くん、今から部活でしょ?あとはやっておくよ」
会議室の窓からコートが見えた。
練習はすでに始まっていて、動き回っている人たちばかり。
「え?でも…」
「部長さんがいかないと皆困るでしょ?」
ホンのちょっとの仕事。
この程度なら一人でもすぐに出来る。
そう話していた時、背後にいた人に気付かなかった。
「俺が手伝う。精市は先に行け」
「柳、くん?」
「弦一郎がイライラしているそうだ」
「…それなら、あとは蓮二に任せようか」
"お先に" という言葉を残して、幸村くんは会議室をあとにする。
私と柳くんをこの会議室に残して…
予想外の展開で、少し頭が回っていなかった。
黙々と柳くんは仕事をこなして…
「ご、ごめんね。手伝わせて」
「いや。気にするな」
仕事をこなす柳くんは真剣な表情をしてる。
早く終わらせたい、そんなカンジだろうか。
私はまだ…終わらせたくない。
だけど、迷惑を掛けている事実が私を焦らせた。
「…志月」
急な声掛けに少し驚いた。
持っていた黒板消しを落としそうになるくらい。
「なに?」
「いや、会議中に精市と…」
語尾になるほど、声が小さくなって聞き取れない。
少し彼に近づいて、もう一度聞いてみる。
「会議中に…?」
彼はそれ以上、何も言わなかった。
また黙々と仕事をこなして、終わらせようとしていた。
私も、彼と同じように仕事をする。
今までない、少しギクシャクしたような時間。
「あ、あの…」
抜け出したくて、この異様な空気から。
勇気を出して、振り返った先の柳くんの背中に声を掛けた。
「……ただの嫉妬だから、何も聞かないでくれ」
自分の耳を疑って、今度は落とした。
軽く響いた、黒板消しが床に落下した音。
振り返った彼の顔は冷静に、次の言葉を紡いでいた。
御題配布元 BERRYSTRAW 学園ラブ2 5のお題「隣の席」
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