テニスの王子様 [LOG] | ナノ
本命のチョコレート


賛否両論。好きな人は好きみたいで、嫌いな人は嫌いみたいで。

態度も言葉もアレだから、カンジが悪いと言っている子もいる。

だけど、私から見た彼は…きっと自分に正直な人だと思うから嫌いじゃない。

嫌いじゃない、嫌いじゃない、が…好きかもしれないに変わったのはいつからだろう。

確かに放たれる言葉は決して優しいものではないけど、その行動には優しさがある。

それに気付いたのは、いつだっただろう。そんなに遠い過去ではない。

いつの間にか変わっていく自分の感情。そのまま無視することも出来ずに今日が来た。



「本当に渡すんだ」

「うん。義理だと思われてもいいから」

幼馴染みの淳がいてくれたお陰で、少しだけ部員の人たちとも仲良くなれて…

彼とは大して仲良くはなれなかったけど、それでも渡すだけの条件もチャンスも出来た。

その分、余計に作ることにはなって大変ではあったけど、それは仕方ないこと。

「受け取って貰えるといいね」

「うん。有難う」

配る数は人数分、その中に彼の分も含まれていて…きっと渡せる。

さり気なくでも何でもいい、沢山のうちの一つでもいい。自分の手で渡せるなら。

義理だと思われても、淳に勇気を貰って渡すことになっても、自分の手で…



「いりません」

ただ、こうもキッパリと言われることは予測もつかなかった。

皆に渡して、最後の最後で渡そうとしたチョコは私の手元に残ったまま…

不機嫌そうな表情で拒否されても、引き下がることが逆に出来ない状況下。

必死で言葉を取り繕おうとすれば…冷たい視線が私に降りかかる。

「えっと、気持ちだから…」

「何度も言わせないで下さい。結構です」

「……捨ててもいいですから」

部室の中、甘いチョコの香りが漂っていて…だけど、それは香りだけ。

今の部室の空気は最悪。誰もがハラハラして見守っているような気がする。

「観月、そう言わずに…貰うだけはしてあげろよ」

「そうだーね」

より苛立たせているのは誰が見てもわかる。私が見てもわかる。

きっと自分に正直な人だと思うから、今、彼は心底嫌がっているかもしれない。

私が嫌で、チョコが嫌いで、お返しが嫌で、こんなイベントが嫌いで…

「義理に興味はありません」

「観月さん、その言い方はヒド――…」



「コレだけは本命です、から」



静まり返った甘い香りのする部室で、誰も何も出来なかったのに彼だけ動いた。

一度は拒否した私のチョコを勝手に受け取って、小さな声で囁いた。

怒った口調、苛立った表情だけど、少しだけ口元を綻ばせて…


"だったら、最初にそう言って下さい"
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