テニスの王子様 [LOG] | ナノ
空箱チョコレート


「……何だ、コレ」

机の中に箱がある現状はわかる。見ればわかる。

今日がバレンタインだと知っているから、余計に中身が何なのかもわかる。

だけど…ソレはやけに軽い上に振っても音一つしやがらねぇ。

「……」

ジッと見つめても透視出来るわけじゃねぇけど、マジマジと見つめてしまう。

ラッピングは他のヤツと何ら変わりはない。立派なモノ。

だけど重量ときたら、この箱の重みくらいしか感じられねぇ。

まさか…まさかだとは思うけども、中身は…なかったりしねぇよな?

「何や、跡部。ソレ、本命から貰ろたんか?」

「まさか、天下の跡部様が本命で浮かれて…激ダサ!」

ゴチャゴチャと両手にチョコを抱えた忍足と、何も手にしていない宍戸。

何とも両極端な二人がわざわざ俺の功績を見に来たのか、呼んでもないのに集合する。

毎年毎年、勝てねぇと知りながら…さてはコイツら、学習機能付いてないな。

「何言ってんだ、この馬鹿コンビ」

「忍足なんかとコンビにすんな」

「そりゃ、こっちの台詞や」

二人して仲良くやって来ておいて、コンビにするなって何だよ。

毎回毎回、何だかんだ言って仲良し子良しの分際で。

「俺様はチョコなんて興味ねぇけど、コレがあまりにも軽いから見てただけだ」

「量より質、ってか?」

「阿呆やな宍戸。そんなこと言うて本命から――…」

忍足…てめぇアレか、その辺のオバサンか?言葉の通じねぇガキか?

やけに本命だの義理だのに拘りやがって。そういうお前はどうなんだって話。

山ほど握らせられたチョコの中で、後生大事に一つだけ持ってるヤツ…

それが本命からだろ?てめぇの方が分かりやすいんだよ。

「ウゼェな…」

「気になるなら開ければいいだけの話だろ?」

「……」


言われたからじゃない。だけど、ソレが気にならないとも言えない。

綺麗にラッピングされた箱、そのリボンを解いて…三人の視線が一点へ。

カパッと開けた中身は……予想通りに何も入っていない。


「カラ、やな」

「何も入ってねぇじゃん」

「……いや、そうでもねぇみたいだ」


箱の中身は何もない。外見だけを着飾られた、ただの空箱。

だけど、俺の手中にある箱のフタにはきちんとその理由が述べられていた。

綺麗な女子の字で、大きくもなく小さくもない字で。



チョコばかり貰っても嬉しくないだろうし、飽きるかもしれない。

だから、私は気持ちだけを箱に詰めて貴方に贈ります。




俺はただ笑った。

面白い策で誰ともわからないモノだけど、初めて…お返しをしようと決めた。
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