まいなすイオンな、アルファ波
「ふわぁ…眠」
会うたび、会うたびにこの言葉を発する。
授業中も寝てるだろうし、睡眠不足なんかありえない。
それなのに、会えばすぐに…
「ゆい先輩からマイナスイオンが出てるんっスよ」
「…はぁ?」
「だから眠くなるんスよ」
体に良いとかで、ちょっと前に話題になったマイナスイオン。
今となっては風化寸前、でも大量にその名を残すモノがあって…
マイナスイオンに睡眠作用なんてあったっけ?
「…アルファ波の間違いじゃない?」
「どっちでもイイっス…」
ベットの端を枕代わりにコロンと寝転がる。
毎度毎度、こんなカンジで眠られて…
私自身に睡眠作用を振り撒く機能なんて付いてないのに。
少しだけ落胆してしまう。
私に気を許して安心して眠ってしまうこと。
それは私にとって"嬉しくない"なんてコトじゃない。
彼に安心感を与えることが出来る。
そんな自分、嫌じゃないから。
「…でも、寝れた方はどうすれば良いのよ…」
寝息を立て始めた彼の頬。
少しだけ引っ張って、遊んでみる。
無邪気に幼い顔して3秒でおやすみの彼。
あまりにも可愛らしくて、それで少し溜め息をついて観念する。
「…まぁ、いっか」
いつもそう。この寝顔で許してしまう。
貴重な二人っきりの時間だけど、寝られたら何もないけど、
私だけ一人で起きている時間は切なかったりもするけど、
彼が私だけに見せてくれる、可愛い寝顔であるならば…
少しだけ笑って、許せる気がするから。
隣にちょこんと座って、彼の髪を撫でながら過ごす時間。
ホンの数分間の時でも長く感じてしまう。
その数分間で私もまた、眠気が襲ってきて…
「ふわぁ―…」
大きな欠伸を一つ、少し体が傾いて…
赤也の隣、寄り添うようにして座り込んで目を閉じる。
片側に感じるぬくもり、それに安心感を覚えていく…
――ああ、私にとっても赤也はアルファ波なんだ。
いつしか、回された手の中で眠りにつく。
お互いのぬくもりが心地よくて、そんなのんびりした時間が好きで、
だから一緒に居るんだ、と自覚する。
時間に追われることなどない。
急かされて何かをする必要もない。
とりあえずは二人で、静かにのんびり過ごしてみよう。
それもまたお互いに幸せな時間であるから。
ちょっとしたコトだけど、大事なことだと思うから…
そんなコトを思う、暖かな午後の休日―…
◇紅蓮華、茜みずきさんへ捧げます。
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