テニスの王子様 [LOG] | ナノ
A;空箱チョコレート


精一杯の勇気だった。

市販も考えたし手作りも視野に入れて結構悩んで悩んで...そして去年の光景を思い出して溜め息が出た。
校門前に並んだ大きなトラックに積まれていく箱たち、それを呆然と眺める女子たち、仕事を淡々と行う運送業と思われるお兄さんたち。
これが全てバレンタインのチョコだから笑える......ようで全然笑えない。先生たちも呆然としている。

あいつのことだから一応、一つ一つを確認すると思う。何だかんだで律儀だし。
でも、大量にあるチョコを一人で消化していくとは思えない。つまり、あれは全て他人の手に渡る。
そう考えた時にどうしてチョコを送れるだろうか。だから私は考えた。


チョコばかり貰っても嬉しくないだろうし、飽きるかもしれない。

だから、私は気持ちだけを箱に詰めて貴方に贈ります。



この気持ちだけは届いて欲しいと願った。



3月14日、その返事が返って来た。
律儀なあいつは分かる限りでお返しをしていると聞いている。だから私もお返しを貰った。


―― バレンタインの日、俺様に空箱なんざくれたヤツ。速やかに名乗り出るように!


そういえば、名前なんて書いてなかった。
考えるのが精一杯すぎて書き忘れたのが実は正解というやつ。ハッとしたのはこの校内放送で、だった。
悲鳴にも似た怒声が響く中、ちょっとだけ面倒だと思いながら指定箇所に向かった自分。
何となく先客(忍足とか)がいそうだと思ったから数本のコーヒーを買って...案の定、本数だけ人は居た。


私は、名乗り出た。
驚かれたけどお返しは直接貰った。重さも何もない箱を、貰った。


確かに気持ちは受け取った。名前くらい書いておけ。後で連絡しろ。


その一言と連絡先が書かれていた。
私はそれを見て笑って...初めて跡部に連絡した。



2016.06.07.
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