不格好なチョコレート
正直、こんなのは苦手。面倒だし、面倒だし面倒だし。
わざわざ湯煎してチョコを溶かして、型取って固め直して?
リーズナブルに市販のチョコで十分だっつー話。
だけど…今回は、今回だけは違う。
「何じゃい、わざわざ呼び付けよって」
数は多いに越したことはない、味は二の次で食べれるものであれば良し。
目の前の男はそう言っては皆にチョコを要請しているような気がしていた。
全くもって嫌なヤツ、女の敵みたいなモンで本当に嫌なヤツだけど…
悔しいけど私のモノと、その他大勢のモノと、一緒にはして欲しくないから。
「ぐうたらしてたんでしょ?退屈しのぎだと思いなよ」
「自己中じゃのう」
「……アンタに言われたくないわ」
いやいやいや、こんな会話をしたくて呼んだわけじゃなかった。
放課後の人気もなくなった教室、下校時刻も過ぎて廊下もシーンとなってて。
いつ先生が見回りに来るかもわからない状況下の中、一刻の猶予もない。
「ハイ。一日早いけど…」
不器用な私が一生懸命、不器用ながらに溶かして固めてした代物。
ラッピングがまた不器用でデコボコになって、本当、何度見ても情けない。
けど、この涙ぐましい努力をしたことだけは伝わる代物だと思う。そう思いたい。
仁王は差し出されたモノを受け取ると、あらゆる角度がそれを眺めている。
「……何じゃコレ」
「チョコよ。バレンタインの」
「随分、不格好じゃのう」
「うっさいわね。苦手なのよ、こんなの」
市販のモノだったなら最初から綺麗なラッピングがされてるし、色んな種類もある。
最初はそうしようかと思ったけど…そんなんじゃダメだ、と不意に心が告げたから。
だから懸命に溶かして固めて、不格好だけど完成した。私の、心のカタチ。
決して自慢出来るような代物ではないけど、それでも達成感のある気持ちの入ったモノ。
「わざわざ作ったんか?」
「そうよ。だから不格好なのよ、悪い?」
「……そんな喧嘩腰にならんでも良かろうに」
「文句言うからでしょ?いくら不格好でもね、それは――」
言葉を続けようとしたら止められた。口元に触れた仁王の長い指先。
何だか満足そうに微笑んで、小さく首を振っているから…終わった、と認識した。
長いこと友達で、長いこと一緒につるむことも多くて、所詮はそれ止まりなのだ、と。
「……要らないなら言いなよ」
「何でじゃ。折角作ったんじゃろ?」
「前日に渡したから、頭数には入らないだろうし」
"それには気持ちが入ってるから"と言ったら、仁王は更に口元を綻ばせて私の頭を撫でた。
グシャグシャと撫でられる感覚が、微妙な心地よさと理解不能な思いを与える。
「コレは今日貰ろうとくけど、さっきの続きは明日聞きたい」
「え?」
「告白はイベントに乗っかってもええじゃろ?」
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