心の中で感情を噛み殺して

例えば彼が知らない女の子と手を繋いで歩いてても、それを偶然にも私が見てしまったとしても...気付いた私はただ笑って手を振るだけ。慌てるのは決まって女の子だけで、彼もまた私と同じ顔で悠々と手を振り返すだけ。

この瞬間、どちらも最低な人間だと思う。

「こないだは偶然やったな」
「本当。たまたま買い物してたんだ」
「せやったんか。あの辺、かわええ雑貨屋多いもんなあ」

言い訳はしない、させない。
謝罪も言わない、言わせない。

「そうなんだよね。こないだもイイ店見つけたんだ」
「さよか。ほな今度一緒に行ってみよか」

そんなこと、無意味に等しいことだから。

「時間が合えばね」

いつだってそう、決まってバツの悪い日だけはこんな甘い言葉を掛けて来る。
甘い甘いお菓子に騙されるほど私は子供でもないというのに。だけど、いつだって私も笑顔で応えてあげてる。

だって、殺したくなるほど悔しいから。


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