男子中学生の話す内容なんて大体決まっている。 漫画の話、昨日見たテレビの話、好きな芸能人、クラスで誰が可愛いか、猥談エトセトラ。 そんな話をしている集団の輪の中に偶々オレがいて。そして。 「吹雪って可愛いよな」 偶々、偶々、そういう話になった。 その言葉を聞いたオレは、速弁して食べていた焼きそばパンを喉に詰まらせてむせた。 「何動揺してんだよ」 「お、お前が変なこと言うからだろ…!」 「別に変じゃねえだろ。なあ?」 「まあなあ」 「クラスの女子よか数倍可愛いよな」 「はああ…!?」 何言ってんだこいつら!馬鹿じゃねーの?男で女たらしで変にずる賢い士郎のどこが可愛いんだ!モテな過ぎて見境なくなってきたんじゃねーの! 色々反論しようとしたがどういう訳か言葉が上手く出ず、黙っていると、話が変な方向に向かってしまった。 「吹雪って押し倒したらどんな反応すんのかな」 「結構苛め甲斐ありそうだよなー」 押し倒す? 苛め? 人の兄貴で何妄想してやがるんだこいつら…! 「おい、やめろよな」 「なんだアツヤ、嫉妬か?」 「はあ!?」 「まあまあ、お前も想像してみろよ、吹雪のこと好き勝手するとこさあ」 「だ、れが想像するか…!」 士郎を好き勝手するとこ…?へっ、んなもん想像して何の得になるんだよ!士郎には胸もねえし付いてるもんは付いてるし、別に何とも…。 …………。 …………………。 「何赤くなってんだ、アツヤ?」 「……は、」 「あ、何、想像したんだ?」 「ばっ、し、してねえよ!」 みんながオレを見てにやにやする。なんだ、なんなんだこいつらは!想像なんてしてねえよ!別に士郎を押し倒して脱がせて押さえつけてごにょごにょなんて、少しも考えてないからな! 「お前なんだかんだで結構ブラコンだしなあ」 「は、はあ!?」 「自覚なしかよ」 にやにやの次はけらけらと笑われる。むかつく!どこの誰がブラコンなんだよ! 「重い荷物持ってやったり?」 「時間合わなくても一緒に帰ったり?」 「1日五回は吹雪の話題が出たり?」 「でも周りが吹雪の話をすると怒ったり?」 「もういい!もういい!」 次々と例が挙げられて、オレは居たたまれなくなり流れを止めた。 くそう、オレ、周りからはそんな風に見えるのかよ。 荷物持ってやんのは士郎が頼りねえからだし、一緒に帰るのは士郎が意外と寂しがりやだからで、あとは、…なんだ、色々だ!そう、色々! 「何怒ってるの、アツヤ」 「ぁ、う、ぇ…?し、士郎!」 いつの間にか士郎がオレの後ろに立っていた。思わず変な声が出ちまった。 さっきまで士郎の話をしていた所為で、妙に意識してしまう。いや、別に、疚しいことも後ろめたいことも、ないけど。 「な、何か用かよ」 「あ、うん、今日お母さん達帰り遅くなるからって」 「ふーん」 「何の話してたの?」 「なっん、でも、いいだろ!士郎には関係ねえよ、早く女子の相手でもしにいけよ!」 「もう、そんな言い方しなくてもいいじゃないか」 ぷく、と頬を膨らませて、士郎は去っていく。……今の、ちょっと可愛い、…いやいやいや!何考えてるんだ、オレは! 頭を横に振る様を、みんなはまたしてもむかつく顔で見ていた。ちくしょー! 今日は部活でミスをしまくった。 パスを顔面で受け、足をもつれさせて盛大に転び、心配して顔を近づけてきた士郎に過剰反応して鼻血を出した。 畜生、畜生。それもこれもあいつらが余計なことを言うからだ! おかげで士郎のことが頭から離れなくなったじゃねえか! 「アツヤ、この際だからはっきり言おう。それは恋だ」 「は」 親友である烈斗に相談してみたらそう返された。 「こ、こここ恋!?」 「そうだ」 「適当なこと言ってんじゃねーぞ、烈斗!」 「恋じゃなければどうして兄貴のあられもない姿を想像して抜くんだ」 「抜いてねーよ!!」 どんな脚色してんだお前は! とんでもないことを言い出した烈斗の頭をぶん殴った。烈斗は頭をかかえながら「いってえ〜」と唸る。はん、自業自得だ。 「つーか自覚なかったんだ…。そのことに驚きだよ」 「別に、士郎のことなんか」 「はいはい(笑)」 小馬鹿にしたように頷くもんだからもっかい殴ってやった。 「お前なんでもかんでも暴力で解決しようとすんの止めろよな!」 「お前の所為だろ!」 「はあ、これだからアツヤは」 「どういう意味だこら」 「ちょ、待て待て!」 「二人ともー、帰るよー?」 部室の隅っこで密談(?)していたオレ達に、声がかかる。士郎だ。心臓が跳ね上がった。 烈斗は助かった、とでも言いたげに立ち上がった。 「おう、今行く!ほら、アツヤ」 「あ、ああ…」 渋々と立ち上がると、烈斗がオレの耳元で、「取り敢えず、ちゃんと考えてみろよ」と言った。 士郎が不思議そうに見ていた。 飯食って、風呂に入って、ソファでジャンプを読んでいても士郎のことが頭から離れなかった。 今士郎は風呂に入っている。今頃士郎は全裸なのかと考えると、ジャンプの内容なんかまるで頭に入って来なかった。 って別に士郎の裸なんて腐る程見たことあるじゃねえか!何を今更! くそ、くそ…。やっぱオレ、士郎のこと好きなのか? そんなことを考えていると、がちゃ、と部屋のドアが開いた。 「はー、すっきりした」 ふわふわと喋りながら、オレの隣に座る。ほのかにいい香りがした。 ちらりと士郎を見ると、その姿に驚愕した。 「な、なんて格好してんだお前はあー!!」 「え、えぇえ!?」 オレは士郎の肩をがしっと掴んだ。 なんと士郎は上半身裸に短パンに肩タオルという格好だった。白い肌が眩しい。眩しすぎる。直視出来ねえ! 「上を着ろ上を!」 「でも暑いし…」 「はしたないぞ!!」 「いっつもこんな感じじゃないか…あ、」 どす、と士郎が後ろに倒れた。勢い余って押し倒す形になってしまった。 士郎が少し顔を赤らめて俺を見た。くそ、なんだ、なんだよその表情!可愛いじゃねえか! 「……ぁ、」 士郎が顔を歪めて小さな声を出した。オレの体は固まった。 恐る恐る目線を下げると、オレの右手が、士郎の胸元にあった。そして人差し指が、何かにぶつかっている。 なんだなんだ、漫画か!い●ご100%か!T●LOVEるか!ははっ…。 …………………。 「う、うわああああ!」 「ア、アツヤ!?」 オレはトイレに疾風ダッシュした。 こんな調子がかれこれ3日続いた。 最早吹っ切れかけてる自分がいる。ああ、うん、士郎は超可愛いよな。 ただ困るのは士郎のことを考え過ぎて他のことが全く手につかないことだ。 授業で当てられても気づかねえし体育の野球でデッドボール食らっても気づかねえしコーラとカルピス間違って買ったことにも気づかなかった。そろそろ危ない。 ということで屋上で烈斗にまた相談してみた。 「告れば?」 「簡単に言ってくれるな」 「いや今のままだと周りも困るだろ。とっとと解決しろよ」 「だって振られたら終わりだろ…。マジで終わりだろ。家庭崩壊の危機だよ」 同じ家に住んでんだぞ。気まずいどころの話じゃねえよ。縁切るとか言われたらどうすんだ。 「逆に考えろよ。受け入れられたらいつでもいちゃいちゃ出来んだぞ」 「いや、リスクでか過ぎじゃね?」 柵にもたれ掛かりながらそう言うと、烈斗は何故か拳を握りしめ声を張り上げた。 「大丈夫だって!士郎だってお前のこと好きな筈だよ!お前口悪いしアホで暴力的だけどさ、根は優しくてなんだかんだで頼りになるし、何より誰よりも士郎思いだろっ!?士郎だってそんな思いを感じ取ってるって!お前みたいないい男そうそういないよ!小さい頃からずっとお前と連んできたオレが言うんだ、もっと自分に自信を持てよ!(ぶっちゃけ面倒臭い!)」 「れ、烈斗…。何か聞こえた気がするけど、ありがとう…!オレ、何か勇気が湧いてきた!烈斗、オレ、頑張るな!」 「ああ、頑張れ!」 「よし、じゃあ、行ってくる!」 「おう!………ん?」 オレは勢い良く走り出して屋上から出て行く。 烈斗、お前が親友で良かったよ!上手くいった暁にはうまい棒三本奢ってやるからな! 「アツヤお前、今から告白するのかああぁー!?」 烈斗の叫びはオレには聞こえなかった。 全速力で階段を下り、廊下を走った。ハゲ眼鏡(先生)に怒鳴られたけどシカトして走った。 教室に近づく度に心臓がばくばくと高鳴った。士郎、待ってろよ! そして遂に教室に辿り着く。 オレは勢い良くドアを開けた。中にいるクラスメートが一斉にこちらを見た。 その中から士郎の姿を確認する。相変わらず女子に囲まれていた。はん、今から士郎はオレのもんになるんだからな! 「士郎!」 「ア、アツヤ…どうしたの?」 驚いている士郎にずんずんと近づき、肩を掴んだ。 そして。 「ん、む…!?」 キスした。 周りから驚愕の声が上がるのが聞こえる。士郎の周りにいた女子共は「きゃー」なんて叫んでいる。 暫くして唇を離すと、士郎は顔を真っ赤にさせて俯いた。照れてるのか?可愛い奴め☆ 「士郎オレ、士郎のことが好きなんだ!」 「…………」 「絶対幸せにするから!」 思いの丈を正直に伝えると、士郎はふるふると震えた。 「………の……」 「ん?」 「アツヤの、ばかあああああ!!」 士郎の怒号とビンタ音が、校舎内に響いた。 その後無事に白恋中最強のカップルが誕生しましたとさ。 オレの想いは全力疾走! (士郎好き好き愛してる)(もお、やめてよアツヤぁ) (解決したらしたらで面倒臭ぇ…) -------------------------- 『yyy』の涙さんの10000hitフリリクに厚かましくも参加し、書いていただきました。 思春期アツヤやばいですね。可愛い。不器用なアツヤがたまらんです。 これからも士郎ちゃんと仲良くお幸せに。 涙さん、素敵な小説をありがとうございました。そして10000hitおめでとうございます!これからも応援してます。頑張ってください(^O^) |