染岡くんは恥ずかしがり屋さんだ。 僕はいつでもどこでも染岡くんと一緒にいたいから、染岡くんの後を付いて歩く。でも染岡くんは「お前、ちょっと離れて歩けよ」と言うんだ。だけど、「あっち行け」とは言わない。彼は根はとっても優しいんだ。 ほんとは手を繋いだり腕を組んだりしたいけど、彼に嫌われるのは嫌だから、無理強いはしない。でも、たまに、誰もいない所ではちょっとだけ手を握ってくれる。顔を赤くしてそっぽ向く染岡くんに、僕はいちいちときめいてしまう。 キスはいっつも僕からで、えっちに誘うのだって僕だった。染岡くんは僕がアクションを起こさないと行動してくれないんだ。雪原の皇子様と言われてるこの僕が行動するまで待つだなんて染岡くんは贅沢だ。でもそんな染岡くんが好きだから、僕は何にも言えない。 染岡くんは口でも行動でもあまり示してはくれないけれど、愛されてないって感じたりはしない。何だかんだ言って僕のことを拒まないし僕には優しいし、甘やかしてくれる。君の傍にいられるだけで、僕はとっても幸せなんだ。 でも。 でもね、やっぱり僕だって寂しくなったりするんだ。君に「好き」って言って欲しいんだよ、染岡くん。 そう言って甘えたって彼は「ばーか」って言うだけだ。 それがちょっと悔しいから、僕は染岡くんをちょくちょくからかったりちょっかいを出してみたりする。僕はこんなに染岡くんに尽くしているんだから、これくらい許されるよね。 まあ、大抵いつも怒られるんだけど。 「また怒られたの?」 「うん」 僕は染岡くんに怒られると、彼のほとぼりが冷めるまでヒロトくんや風丸くんの元に来る。今回も、ヒロトくんの部屋にお邪魔していた。風丸くんも一緒に。 「今回は何したんだ?」 「何したって程じゃないよ。雑誌見ながら、この人かっこいいなあって言ってただけ」 「わざと聞こえるように?」 「うん」 「何回も?」 「うん」 「君って地味に酷いことするよね」 ヒロトくんと風丸くんは苦笑いをした。 だって染岡くんに聞こえなきゃ意味ないじゃないか。それに、その雑誌についてた男の人よりも染岡くんの方が断然かっこいいもの。 「まあでも、良かったじゃないか」 「何が?」 「それって嫉妬してくれてるってことだろ?」 「あっ、そっか!」 染岡くんを困らせることばかり考えていた僕は、そんなこと微塵も思わなかった。 そっか、嫉妬かあ…。 「でもあんまりからかい過ぎると襲われちゃうかもよ?」 「嫌われちゃうかもじゃないんだ」 「うん…。二人を見る限りそれはなさそうだ」 「えへへ。でも染岡くんは僕を襲う度胸ないよ、きっと」 「そうかな」 だって自分からキスは愚か手すらなかなか繋いでくれない染岡くんが、僕を襲うだなんて。天地がひっくり返ってもないよ、絶対。そんなことに自信を持つなんて何だか悲しいけれど、事実なんだもん。ヒロトくんや風丸くんだって分かってるくせに。 まあ、それはさて置き、嫉妬云々の話で少々機嫌を良くした僕は、早く染岡くんに会いたかったからヒロトくんの部屋を後にして、染岡くんの部屋に向かった。まだ怒ってるかもしれないけれど、まあいいや。 「染岡くん」 ドアを軽くノックして、部屋の中に入る。染岡くんは僕が出て行った時と同じ位置でサッカー雑誌を読んでいた。染岡くんは僕が入って来たのを一瞥しただけで、何も言わなかった。 「まだ怒ってる?」 「別に」 そっけない。怒ってるじゃないか。でもこれは嫉妬なんだって思うと自然と頬が緩んだ。 僕は染岡くんに抱きつく。それでも染岡くんは無反応だ。むう。いつもは戸惑うか何かするのに。 「ごめんね染岡くん。ほんとは染岡くんの方がかっこいいよ」 染岡くんを見つめて、出来るだけ優しい口調で言う。こうすれば染岡くんは大体許してくれるんだ。 ほらね、染岡くんは雑誌に目を通すのを止めて僕を見てくれた。そして、僕の頭をそっと撫でる。これが彼なりの抱きしめ方だ。 染岡くんに頭を撫でられるのは大好きだ。だから大人しく頭を撫でられておく。 「染岡くん大好き」 「……そうかよ」 あーあ、そんな言い方したら、白恋の子達が卒倒するよ。なんて馬鹿げたことを考えながら、染岡くんにキスをした。 いつも通り。 染岡くんが積極的じゃないことで僕が得することもある。それは主導権を僕が持てることだ。僕はまあ所謂女の子役な訳だけれど、男としてのプライドはあるし、高い方だ。僕が女の子役に回ることを不満に思っている訳じゃないけど、せめて主導権くらい僕が握っていたい。なんだか勝った気分になるよね。 「ん、…、ふあ」 一回唇を離して、息を吸う。僕は残念なことながら、キスはあんまり上手な方ではない。それに夢中になっちゃうから、すぐ息が上がっちゃうんだ。 もっと上手に出来るようにならなきゃ。そんなことを考えていると、染岡くんが顔を近づけてきた。 「ん、……!?」 あれ、あれれ?染岡くんからキスだなんてどういう風の吹き回しだろう。 なんて、考えてる余裕はすぐになくなった。 「んっ、んんむ、っ…ふ、ぁ」 口の中を、舌で犯される。 僕はとっても混乱していた。 どうしよう、どうしよう。染岡くんにこんなキスをされるだなんて。 思ってもみない切り返しに、僕は戸惑う。どうしたの、どうしちゃったの染岡くん! 常日頃、たまには染岡くんから抱きしめて欲しいとか、キスして欲しいとかいう願望はあった。それが今叶っているのに、僕は堪らない気持ちになった。 だってだって、恥ずかしいんだ。いつも自分からするのに慣れてるせいか妙に緊張しちゃって、まるでキスするのが初めてな女の子みたいな反応をしてしまう。 うぅ、キスされるのが、こんなに恥ずかしいだなんて。 「ふ、ぅ…」 漸く解放されて、大きく息をつく。どうしたの染岡くん、と言おうと上を向くと、染岡くんに見つめられていた。じぃっと僕を眺める視線に耐えられなくて、僕は目を逸らす。 変だ。今日の、というか今の染岡くんすっごく変!こんな積極的な染岡くん初めてだ。いつものヘタレな染岡くんはどこに行っちゃったの?何か悪いものでも食べちゃったのかな。 顔が熱い。自分の顔が赤くなっているんだと、嫌でも分かった。こんな姿を、染岡くんに見られるなんて。お願い、お願いだから、いつもの染岡くんに戻って、 どさ 「う、ぇ……?」 染岡くんに押し倒されてしまった。手首をぎゅっと掴まれて、動けない。 嘘、嘘、嘘! 染岡くんの僕を見る目が怖い。男の目だ。狼の目だ。獲物を狙う目だ! どうしよう、染岡くんに襲われちゃう! ああ、でも、染岡くんすごくかっこいい。 -------------------------- 『yyy』の涙さんから相互記念としていただきました! 吹雪くんが可愛すぎる><珍しく染岡さんから何かされて慌てちゃう吹雪くんが可愛いです/// にまにましながら何回も読み直してしまいます。 涙さん、こんな萌える小説をありがとうございました! |