その意味 「染岡くん」 吹雪が俺の名を呼ぶ。 小さな手で頼りなくマフラーを握り、不安げな表情を浮かべて俺を見ていた。 「僕は、」 「もういいって」 足の治療のため入院している俺のもとに来て、吹雪は告げた。 自分にはもう1つの人格があること。今、サッカーができないこと。 それを告げる間の吹雪の表情はあまりにつらそうで、聞いている俺まで苦しくなった。 「お前は、お前だろ?」 「それでもチームに必要なのはフォワードのアツヤなんだ。僕じゃない」 「そんなことねぇよ。お前も…、士郎もチームには必要だ」 「………」 吹雪は小さく口を開き、何かを言おうとしたが、しかしそれはすぐに閉じられる。 「吹雪…」 「…僕は…、完璧にならないとみんなに必要とされないんだ。ねえ、染岡くん…僕は、」 ―どうしたら完璧になれる? その吹雪の問いは思った以上に重く、すがるような眼差しで見つめられれば簡単に答えを出すことは出来なかった。 「完璧じゃなくても、そのままのお前でいいって」 「だめなんだっ!…だめなんだよ」 ―なあ、吹雪。お前は何を求めてここに来たんだ? 吹雪を救ってやりたい。だけど、吹雪の気持ちが分からない…。 「染岡くん…」 俺と吹雪の間に沈黙が流れる。 1秒1秒がとても長く感じられた。 ふと、吹雪の顔を見ると真っ直ぐに俺を見つめていて少し驚いた。 だけど―、 分かった。 今の吹雪の目を見て、ようやく分かった。 きっと吹雪は、 自分が許せなくて、 誰にも認めてもらえない気がして、 でも、誰にも相談できなくて、 まるで自分が独りぼっちのような気分になったんだ。 自分1人きりの世界に閉じ込められてるんだ。 吹雪、お前は 「寂しかった、か?」 「…っ…」 寂しかったから、俺のもとに来たのか―? なんだか急に愛しさが込み上げて、そっと抱き締めればその身体は予想以上に小さくて、すぐに壊れてしまいそうで―…。 守りたい、そう強く思った。 -------------------------- なんとなく吹雪くんが染岡くんのお見舞いに来たときの行間を読んでみました。 珍しく吹雪に気がある染岡さん(笑) ← |