君しかいない 吹雪。 その唇がそう動くだけで僕の心臓は高鳴るんだ。 ねえ、僕は君しか見えないよ。 「染岡くん、怪我の調子はどう?」 「おお、もうすぐ完璧に治るぜ」 「そっか、よかったね」 僕は微笑む。 それでももう君とはサッカーできないんだけどね。 なんだかすごく悲しかった。 僕は明日北海道に帰る。 エイリア学園の騒動が片付いてとてもうれしかったけど、みんなと、染岡くんと離れなくちゃいけないと思うと堪らなく寂しい。 特に染岡くんとはほんの少しの時間しか会えなかったから。彼は途中で怪我のためにチームを抜けた。 こうしてお見舞いに来たのは2回目。だけど、これがお別れなんてね。 ―また会えるのはいつ? ねえ、そのときはまたサッカーできる? 「吹雪、マフラーやめたんだな」 「え…。うん、まあね」 染岡くんが僕の変化に気付いてくれた。それがすごくうれしかった。 染岡くんはぶっきらぼうで分かりにくいけど、仲間のことをちゃんと見てくれてる。それは僕も例外ではなくて。 僕の喜びが顔に出ていたのか、染岡くんは訝しげな顔をして「なんだよ」って聞いてきた。 ほら、ダメだよ。染岡くんはもともと顔が怖いんだから眉なんてしかめたらもっと怖くなっちゃうよ。 でも、 そんなところも好きだよ。 ―壊れてしまうくらいに。 どうして染岡くんのことが好きなのかは分からない。だけど、だからこそ僕は自分の染岡くんへの気持ちは本当だと思った。 理由を言えるって、好きかどうか怪しいと僕は思う。まるで建て前みたいな、そんな感じ。 しばらく他愛ない会話をしていると、どこから現れたのか1人の女の子が僕たちの前に立っていた。 そして僕の方を見て口を開く。 「あ、あの…!」 「なんだい?」 ああ、またか―…、 邪魔しないでほしいな。 僕は今染岡くんと話してるのに。 「よかったら携帯電話の番号教えてください!」 「………」 病院内で逆ナンなんて信じられないなあ。 呆れつつも僕は笑顔を崩さない。 ああ、でもこの子どこかで見たな…。 「あの、私、」 「ああ、うん。いいよ」 「本当ですか?!」 思い出すのめんどくさいしとりあえず言うことを聞いておこうか。女の子たちは僕の笑顔に弱いみたいだからもちろん笑顔で。 正直女の子の見分けってあんまりつかないんだよね。みんな同じだし。 僕は早くまた染岡くんと2人きりになりたかったから適当に紙に数字を書き並べた。 ―こんなの誰の番号か知らないけど。 「はい」 にこりと笑って差し出せば彼女は顔を赤らめて、「ありがとうございます」と控えめに呟き、そのまま立ち去っていった。 ―それ、変なところの電話番号だったらごめんね? そんなことを思いつつも大して後ろめたさも感じない僕は最低かな?最低だよね、うん。 だって僕の必要なものは決まってるし。それ以外のものなんていらないよ。 ふと染岡くんに視線を返すと彼は不機嫌な顔で僕を見ていた。 「染岡くん?」 「………」 「どうしたの、染岡くん?」 「お前、誰にでもいい顔するんだな」 ―え?いい顔? どうやら染岡くんには僕は彼女にいい顔をしたと思われたらしい。 僕は最低のことをしたんだけど。 「…もしかして嫉妬?」 そんな訳ないか、と自分で突っ込みながらも僕は返事を期待した。 それでも彼はなかなか口を開かない。 「染岡くん?」 「…別に、嫉妬なんかじゃ…ねえよ」 ああ、そんな顔で言わないで。 僕の心が期待に震えてしまうよ。 あのね染岡くん…、 「ねえ、僕はね」 君が好き、 「誰にでもいい顔してるんじゃなくて」 君だけが好き、 「誰にもいい顔してないんだ」 誰よりも好き、 「好きな人以外にはね」 君が大好き。 「好きな奴、いんのかよ?」 「うん」 僕には君しかいないよ。 「………」 また、そんな顔をしないで。 僕の心臓が壊れてしまいそうだよ。 ああでも、それでもいいかな、なんて、 君にしか思わない。 君が僕の名を呼び続ける限り、僕は君の隣にいるよ。 -------------------------- 吹雪くんが最低なやつになりました。すみません。 染岡さんにゾッコンな吹雪くんが好きです。 ← |