手にできた絶対


暑くて眠れない夜。
俺は今まさにそんな夜に直面してて、さっきから寝返りばかり打っている。

なんで人間っていうのは周りの温度変化についていけるようにできていないんだろうね。

まあそんなこと考えてても仕方ないし、
いっそもう起きて何かしようかな…。


俺がベットから身を起こしたのとほぼ同時に、部屋の扉が叩かれた。



―こんな夜中に誰だろう?
円堂くんだったらいいのに。というか円堂くん以外だったら許さない。いつもだったら寝てる時間だからね。


「あ、ヒロト!起きてたのか!」
「え、円堂くん!?」


まさか本当に円堂くんが来てくれるとは思わなかった。なんていうか、単純にうれしい。

円堂くんは可愛らしい笑顔を浮かべながら俺の部屋に入ってきた。そして俺の隣に腰かける。


「なんか今日寝付けなくてさ、誰か起きてないかなって思って」
「それで俺のところに来たんだ」


なぜ俺のところに来たのかは分からない。彼は気まぐれだから。だけど、俺のところに来てくれただけでうれしかったから別にいいんだ。


「ヒロトも寝付けなかったのか?」
「まあね。今日、暑いよね」
「そうなんだよ。それで寝付けなくて」
「そっか。同じだったんだね」


円堂くんと同じ、それだけで俺の胸は躍り出す。

―円堂くん、ほんとに君はすごいよ。
君がいるだけでいくらでも俺はうれしくもなるし、悲しくもなるんだ。


話すことが無いのかしばらく彼は黙っていた。まあ俺と円堂くんに共通の話題なんて無いしね。

沈黙に居心地の悪さを感じた頃に円堂くんは徐に口を開く。


「なんかさ、ヒロトとこうやっていられるのすごいよな。色々あったし」
「そうだね。俺も、円堂くんと一緒にいられるのが現実ってまだ信じられないよ」
「ヒロトが宇宙人って知ったときは、裏切られたって思った。まあ結局は宇宙人じゃなかったけど、それでも悲しかった。だけど、それもみんな今の俺たちに繋がってるのかな」
「円堂くん…」


そんなことを笑顔で言われれば、逆に申し訳無さが増した。
俺は一度円堂くんを裏切った、その事実は変えられない、か…。


「ごめんね。俺は君をたくさん傷付けたよね」
「謝んなくていいって!俺さ、ヒロトとこうやって友達になれてよかったと思う。だからあれも無駄なことじゃなかったんだよ!」
「…ありがとう」


優しくて、温かくて、太陽の光みたいに俺を包み込んでくれる、そんな君が大好きなんだ。

この温かさは俺がいくら望んでも手に入らなかったもの。

まるでお母さんの胸の中にいるような、そんな安心感。



そんなことを考えているとなぜかは分からないけど、急に胸が熱くなってきた。



ああ、俺―、



「ヒロト…?泣いてるのか?」
「あれ、ご、ごめんね。…どうしちゃったのかな…」


どうしても涙が止まらない。

この涙は欲しかったものが手に入った喜び。


「…ヒロト…」
「…っ…」


突然円堂くんに頭を撫でられたのを契機に、俺の涙腺は壊れてしまったかのように涙が溢れ出してきた。


この手のひらの温かさ。
こうして撫でて欲しかった。
親のいない俺には到底叶わなかったこと。


「円堂くん…円堂くんっ…」


ああ、俺情けないなあなんて思いながらも俺は円堂くんに身を預ける。
円堂くんは俺を拒絶しない。いつだって俺を包み込んでくれる。あんなに酷いことをした、汚ない俺でも。
円堂くんは俺が欲しかったものを全部くれる。好きだよ円堂くん。好きなんだ、君が。


あの時はあんなに簡単に言えたのに、今は言えない。俺は臆病になってしまったから。


一度何かを手にしてしまったら人は貪欲になって、そして臆病になってしまうんだ。手にしたものを失いたくない、そう思うんだ。
逆に何も失うものがなければとても大胆になれる。


だけど俺は失うものがない辛さを知っているから、


今の臆病な俺が好き。



親がいなくたって、俺には大切なものがある。



俺は絶対のものが欲しかった。
例えば家族。
友達は何かをきっかけに離れていってしまうかもしれない。俺は友達の不安定さが嫌いだった。だけど家族はどうしても離れられない。それは絶対で。

だから、今までずっと『吉良ヒロト』の代わりとして生きてきた。そうすれば父さんが喜んでくれる、父さんが俺の父さんでいてくれる、そう思って。俺はそれが幸せなんだと思ってた。
それが偽りだと分かっていながら。

だけど円堂くんは俺を『基山ヒロト』として見てくれる。誰かの代わりじゃなくても俺がいていい居場所を作ってくれた。

なんでだろうね。
円堂くんは家族じゃないのに絶対な気がした。
絶対俺を裏切らないでいてくれる。円堂くんにはそんな安心感がある。


俺が臆病になる必要も、ほんとはないんだ。


「…ごめんね…円堂くん。もう大丈夫」
「そっか、よかった」


そう言いながらもまだ頭を撫でてくれている。お母さんみたい。

「ふふふ、」

円堂くんがお母さんみたいか。なんだかおもしろいな。

「なんだよー、急に笑いだして」
「なんでもないよ」


これが『幸せ』なのか。

ようやく手にできた大切な宝物。


円堂くんと一緒にいられるだけで俺は幸せになれるんだ。


一晩、いやほんの短い間だけでいい、


どうか一緒にいさせて。



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ヒロトってすごく可哀想な子ですよね。
だからこそ円堂くんに依存しちゃうんだと思います。
この小説一応ヒロ円としましたが、ヒロ→円でもヒロ+円でもあるような気がします。お好みで解釈してください(^^)


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