ボクが悪魔である事をなまえに打ち明けた。いつまでも黙っていられる事では無かった。前になまえに伝えたい事は全て伝えられたと思ったはずなのに、一番身近でこんなに重大な事を伝えなかった。常に自らのなかに付きまとっていたはずなのに。
悪魔である事に、ボクは誇りを持っている。人間なんていう軟弱な生き物よりもずっとずっと優れた種族だと思っている。人間の思考や行動はボクにとって理解し難いものであり、基より理解する気は微塵もなかった。しかし、今こうしてなまえを目の前にしてボクが思う事は…。
なまえは、ボクと目を合わせず、カタカタと震えている。それも当たり前か、今まで仲良く遊んでいた相手が悪魔だったと聞かされたのだから。そして、自らを死に至らしめる原因を作った異種族。幼かったなまえに魔障を負わせたのはボクでなければボクの劵属のものでもない。でもきっと、なまえの中ではボクたちは悪魔という一くくりでしかないのだろう。
「……なまえ。」
「……う……して、」
「……。」
差しのべた手を初めて振り払われた。暖かいはずの手のひらは冷たく乾いた音を立ててボクを拒絶する。
「………アマイモン、どうして最初から言ってくれなかったの?」
「………スミマセンなまえ、ボク…………あ。」
なまえは突然ボクを抱きしめた。震えているのが伝わってくる。本当は怖くて仕方ないのだろう。なのにどうして?なまえ。唖然としているボクの耳元で、なまえは優しく話し出す。
「……アマイモンが悪魔だからといって避けたりなんかしない。悪魔だと知った時、それはそれは怖くなった。けど、アマイモンは優しくて暖かくて…私に愛情をくれた。こんなにも素敵な人が悪魔だったとしても、私は………アマイモンの事を愛してるの!」
最初は、おだやかに話していたなまえだったが、ボクの背中に回し服ごと握りしめていた手にだんだんと力が入っていた。
「愛、してる…ボクを?」
悪魔と知ってなおボクを"愛してる"と言ったなまえ。ボクは、"愛情"というものをキミにあげられたのか。ならばボクも、なまえを"愛したい"。これまでなまえに執着し、大切にしたいと思うのは全てなまえを"愛したかった"からなのか。だからさっきもなまえの窮地に助けにきてあげられたのか。
さらには、なまえがこうして抱きしめてくれたり手を握ってくれる事は"愛情"というのだろうか。
なまえなまえなまえ。ボクの頭の中は今キミでいっぱいだ。どうしたらいい。ボクがボクでないようだ。
そうだ、ボクも人間だ悪魔だとつまらない意地を張っていないで素直になればいい。ボクもなまえを愛してる。そしてもっと、もっとなまえに愛情をあげたい。もらいたい。
慣れない手つきで、なまえを抱きしめ、腕の中に閉じ込める。しっかりとなまえをとらえて離さない。
「なまえ……ボクも、キミを愛してます。」
「…………!」
ボクがぎこちない言葉をなんとか紡ぐとなまえは相当驚いた顔をしてボクを見つめた。しかしそれから数秒もしないうちになまえの両目から涙が溢れてきて落ちてはボクの服を濡らした。
ありがとう、ありがとうと何度もいい、また泣きながら笑っていた。
「嬉しい…アマイモン。」
そうか、これは嬉しいのか。人間は悲しい時だけではなく嬉しい時にも涙を流すものらしい。
だとしたらこの前の時も嬉しかったのだろう。
気まぐれで連れてきたなまえに今ではこんなにも夢中になっている。もう怖い思いをさせたくない。ボクが、なまえに害をなす全てのものから守ってやる。なまえが愛しくて、仕方がない。
「なまえ、ボクの住む世界には、キミは人間なので行くことはできませんが、この世界でボクと暮らしましょう。」
「わああっ、やっ…た………うっ………ごほっ……はっ…。」
突然、なまえの柔らかな表情が一変、厳しいものになった。
「なまえ!」
それまでのボクは愚かにも、なまえの命の残量が残りわずかだということを忘れていた。
愛し(かなし)あとがき
"愛する"という言葉は知っていても、"愛情"が何たるかは今まで知らなかったアマイモン。…っていう。