「…くれるの?」

「キミ、顔色悪いですよ。」

ボクの大好物であるバクダン焼きを目の前の女に突き出す。正十字学園町の大通りをフラフラと歩いていたら、うずくまっているこの女が目に入った。普段なら無視しているところだが、何がボクを動かしたのか、気がついたら女に話しかけていた。女は見るからに具合が悪そうだったので、とりあえず手に持っていたバクダン焼きを与えてみようと思った。

「せっかくなんだけど私こういう物が苦手で…。」

「食べられないんですか?」

「あっ、あなたの厚意を無駄にする訳じゃないの。身体に合わないっていうか…。」

「無理にとは言いません。誰にでも苦手な物はあります。」

ボクは差し出していたバクダン焼きの中から一つ、自分の口に入れた。

「……っ。」

それをじっと見つめていた女は、急に地面に顔を伏せた。
女に話しかけたのも大好物を差し出したのも全部ボクの気まぐれだ。だから、今も何とも思わずこの場から立ち去る事もできるはずなのに。

「大丈夫ですか?」

ボクは片膝をついて苦しんでいる女の肩にそっと、優しく手を置いた。

「………あな、た優しいね。」

優しい、だなんて生まれて初めて言われたかもしれない。ボクにはそれぐらい無縁な言葉だった。

「キミ、一人ですか?」

「………え?」

ボクの言葉の意味が良く理解できていないらしく、女はわずかに首を傾げた。
ボク自身も自分が何を言っているか分からなくなった。でも口は更に言葉を紡ぐ。

「ボクと一緒に来ませんか?」

「ど、こへ?」

「ウーン、何処へ行きましょうかね。まあ、何処へでも行けますよ。」

「本当に?」

「はい。」

「じゃあ、行きたい!…え、っと、」

「ボクはアマイモンです。」

「アマイモンさん!私はなまえっていうの。」


そうか、なまえっていうのか。キミの名前が聞けた時、少しだけ左胸の辺りがどくどくしたのはどうして?
苦しいのが無くなったのか、なまえは笑顔を浮かべていた。

さて、これからどこへなまえと行こう。とりあえず、兄上のところへ行ってみるか。

隣を歩くなまえの放つ雰囲気はふわふわとしていて、なんだかわたあめみたいだなんて思った。


出会う


あとがき

アマイモン中編スタートです。よろしくお願いします!