「だーかーらっ、あたしはアナタの為に魔法の世界からやってきたの!」

「…………は?」

朝日がカーテンの隙間から覗き、今日も今日とて清々しい朝…のはずだった。目覚めたばかりのオレは目の前に繰り広げられている光景に目を疑った。昨日の夜、きちんと窓の鍵はかけたはずだ。なのになぜオレの部屋にヒラッヒラの変な服を着た女がいるんだ。
手には先端に星がついた"布団叩き"みたいなものを持っている。

「女の子にモッテモテで始終困っているアナタのお悩みを解決するべくあたしはやってきたのです。」

そう言って女はいきなりオレのいるベッドまでやってくると、"布団叩き"を振り回した。
ぱっちんとウインクをして語尾にハートが付きそうな勢いなこいつに無性に腹が立った。だが流石にこんな意味の分からない女相手に朝からぶっキレるのはダルい。

「せっかくで悪いが、」

「はぁい!何でも言ってネ!」

「帰ってくれ…。」

「オッケー!んじゃあ………え、何て?」

「うぜぇ。…帰れってんだ。」

「………い、いやぁあああ!!それだけはダメ!」

「何でだよ。てめェ今何でも言えって言ったろが!」

女はオレから布団奪い取り、頭から被って姿を隠してしまった。

イライライライラ。

沈黙が部屋を包む。
早くしないと学校に遅れちまう。こんな訳わかんねーヤツになんか付き合ってられないんだ。そもそもどうやって家に入って来た?俗にいう不法侵入ってやつじゃないのか、これは。
布団を被ったまま一向に動こうとしない女に痺れを切らしてオレはついに布団を剥ぎ取った。

「てめェ、いい加減にしやがれ!」

「……ッ!」

「な……ッ…。」

女は、目を見開いてオレを見た。その目は微かに潤んでいる。少し、言い過ぎたか…?
つうか、アレぐらいで泣くか?これだから女ってのは。
早く部屋から出て行って欲しいので、仕方なくなくヤツの手を引っ張ってた。その時の女の顔を見たら何やらニヤニヤしていた。

イライライライラ。

「アナタの望みを何でも叶えてあげようとしているかよわーい魔法少女に暴言を吐くなんて、言語道断ッ!」

「うるせェ!それにてめェ今泣いてたんじゃねェのかよ。」

「ざーんねーんっ!演技ってやつ。まんまと引っ掛かってくれてありがとう。おもしろかったよ!」

「……………。」

こいつはかなり厄介だ。だいたい魔法少女って何だ、テレビか。
朝から盛大に不愉快だ。今日は風紀委員会の活動があるから早く学校に行かないと行けないというのに。

「さて、と。」

「おいその"布団叩き"で何すんだ。」

「布団たた…?…酷い!これは歴とした"マジカルステッキ"なんだから!」

テレビか。

イライライライラ。

もうそろそろ時間も精神も限界に来つつあるので、女を摘まんで外に出そうとした時だった。

「サスケー、お部屋が騒がしいけど、何かあったのかしらー?」

か、母さんだ。ドアを挟んで母さんの声が聞こえた。即座に摘まみ出そうとしていた女を引っ張り押し入れへと放り投げた。

「いや、何でもない。テ、テレビだ。」

「……そう?ご飯冷めちゃうから早く降りて来なさいよ。」

母さんは中には入って来なかった。安心しきっているところで、オレは重大な事実に気づいてしまう。すぅーっと頭から血の気が引いていく。…オレの部屋にはテレビがない。咄嗟に思い付いた嘘は母さんはきっと見抜くだろう。オレにしては大変冷静さを欠いた嘘だ。なんてこった。……ああ待て、携帯のワンセグってことにできるか。よしそれでいい。少し震えていた手で押し入れの扉を開ける。しかしそこには放り込んだはずの自称魔法少女が居なかった。おいおいあいつどこ消えた。

「びよよーんっ!」

「んあッ?」

突然後ろの方から声が聞こえて驚いて振り替えると眼前にさっきの女がいるものだから、間抜けな声を上げてしまった。情けない。

「あれがサスケのおかーさん?」

「だとしたら何だ。早く出ていけ。このままじゃあてめェのお陰でオレの生活が狂いそうだ。」

「いやぁあたしのお陰だなんて、照れちゃいますねえ。」

「褒めてんじゃねぇよ。ウスラトンカチ!」

「今日からサスケをお助けするためにベッタリいくんでよろしく!あ、サスケの友達からはあたしの姿は見えないから安心してね!」

「オレの言うことはまるで無視か。」

自称魔法少女は困り果てたオレの顔を嬉しそうにニコニコしながら見つめていた。



(続いたりします...)