【眠る前にはキスをして】


暗い暗い。何も、見えない事への恐怖。

光を失った生活にはもうとうに慣れたはずなのに。どうしても夜になると怖くなってしまう。夜の静けさはこれまでの戦いの数々を脳裏に蘇らせる。血やそこら中にバラバラに散らばった死体。今はもう見えない。けれど、頭の中に焼き付いたそれらはきっと死ぬまで忘れる事は無いし、できない。

だから貴方が側にいてくれなければ、夜は過ごす事が難しい。


「………サスケ。」

さらりと私の髪をすくう優しい手。チャクラを感じ取る前に貴方の気配は分かる。もうこんな生活は長いから、覚えてしまっている。

「なまえ。」

「今日はいつもより早いんだね。」

「どうして分かる?」

「駒鳥たちがね、近くにまだ水を飲みに来ているの。それにほら、夏のこの時間は蜩も鳴いてるから。」

「年寄りみたいだな。」

「……もう。」

皮肉混じりに鼻で笑う貴方。私は聞き捨てならない言葉にふて腐れながらも貴方に寄りかかるように背中から身体を預けた。

「今日は、何もなかった。」

「そう。」

「お前が、やめておけと言うから。」

「サスケだって、殺めることは好きじゃないでしょ。」

「………あぁ。」

私のせいにしないでほしい。貴方だって心の奥底から血を恐れ死を慴れているというのに。

日が落ちたら辺り一面黒に飲まれる。私の視界と同じように。
そう思うと、恐くて恐くて仕方ない。

「本当なら、ずっと朝になっても一緒にいて欲しいの。」

「…………なまえ。」

「ごめんなさい。わがままを言うつもりは無かったんだけどね。」

貴方がどんな表情をしているか、直接は見えないけど微かな声色の変化で分かる。きっと辛そうな顔をしてる。名前を呼ばれた時にそう感じた。

「今日はもう寝ろ。明日、朝早く迎えにくる。」

「…迎え?」

「明日、ここから東にかなり離れた場所へとアジトを移す。敵の忍がかなりのやり手でな、この場所がバレるのも時間の問題だ。」

「……そう。」

貴方は私をそっとベッドに横たわらせると、布団を優しくかけてくれる。
私の片手は宙をさまよいながら貴方の頬へとたどり着く。
ゆっくりゆっくり、唇と唇が触れ合った。季節とは裏腹に酷く冷めていたそこは少しずつ熱を帯びていくのが分かった。

「おやすみなさい、サスケ。」

「ああ。」

夢に、幸せそうに笑う貴方が出てくる事を願ってから意識はすっと消えていった。


眠る前にはキスをして


あとがき

ヒロインはうちは一族で万華鏡写輪眼を有していたが、戦いを重ねる度に見えなくなっていってしまったという設定。所謂盲目ヒロイン。

誕生日企画はこれにて終了です!
ここまでお付き合いくださりありがとうございました!