「……もしもし?燐、どうかした?」

これから祓魔塾へ行こうといろいろと準備をしていたら燐から電話がかかってきた。何でもこれからすぐに来て欲しいのだとか。燐とは幼馴染みっていうか親友っていうか、そんなやつだから呼び出されることは珍しくない。どうせまた塾の課題を手伝えー、とかそんなんだろうけど。雪男は一人前の祓魔師だから急な任務に駆り出されると燐の課題を最後まで付き合えなくなってしまうこともある。そんな時は私の出番ってとこだ。まったく手のかかる幼馴染み達よ。塾が始まるまであと30分もないのに。よっこらせ、と参考書の束を鞄の中に入れたところで、背後に慣れた気配を感じて振り返らずにその名を呼んだ。

「アマイモン、どしたの?」

「ハイ。なまえに急に会いたくなったので来てみましたが、なまえが奥村燐と電話で会話していたのでむしゃくしゃしていました。どうしてよりによって奥村燐なのですか。」

「悪魔の癖に嫉妬とはね。幼馴染みだから仕方ないじゃん。」

アマイモンは私の手にあった携帯を奪い取った。嫌な予感がして必死に取り返そうとしたけれど、要領のいいアマイモンには敵わない。塾はあと少しで始まっちゃうし、燐のところに行かなくちゃいけないし…勘弁して欲しい。そう思っていた矢先、悲劇は起きた。

「あああぁぁっ!!」

バキ、メキメキ。と嫌な音を立てて私の携帯がアマイモンの手中で粉々になった。ぎゃああせっかくできた新しい友達や、中学の時の友達とかのアドレスがあああ。

「…おぉう何てことしてくれる。」

「よし。これでなまえにはボクだけですね。」

「アマイモンの携帯のアドも一緒に消えたけど。」

「他の男となまえが繋がるより良いです。それにボクはなまえにこうしてずっとくっついていくのでいらないです。」

「…いろいろまずい。ダメでしょが悪魔の王さまが悪魔祓うの教えてるとこ来ちゃあ。」

細かい事は気にしないでください、とアマイモンは私の愛機の残骸を惜し気もなく辺りに盛大にばらまいた。幸い付いていたストラップは無事なようだ。メフィストさんとお揃いで私だけびっくりした、うさ吉のストラップ。

「さあボクの胸にオイデ。」

両手を精一杯広げてはいるものの、無表情で言われてもなあ。ときめくものもときめかない。どこで覚えたんだろうか、その台詞。絶対メフィストさんだ。アマイモンに変な事吹き込ませて何が楽しいんだか。それにむしゃくしゃしてるアマイモンに抱きついたりなんかしたら捻り潰されそうだ。おー怖い怖い。

「なまえー、なまえー。」

そっちが来ないのならこちらから行きますよなんて言って抱きつかれた。もう仕方ないなあ。この我が儘な王さまのご機嫌を直してから出かけるとしよう。燐、お願い待ってて。塾には、雪…奥村センセイに怒られる覚悟でいかないと。