どこどこどこ?私の愛しの貴方は今どこに?見つけたと思ったら、すぐにふらりとどこかに消えてしまう。早く捕まえなくちゃ。絶対にここにいると確信していた理事長室には、彼の弟が一人ぽつんとたくさんのお菓子に囲まれていた。くらり。ああどこか貴方の面影があいまみえるわ。でも何も見なかったことにして、ドアを閉める。さてとお次は正十字学園でもあたってみましょうか。身長が高い上にあの派手な格好だからすぐに見つかると思ったのに。早く、早く。

辺りをキョロキョロ見回していると後ろからトントンと肩を叩かれた。もしかして…メフィスト?そう思ってキラキラ笑顔で振り返るとそこにはさっき理事長室で会ったメフィストの弟兼地の王さんがいた。メフィストではなくて、少しだけがっかりしたけど、彼は別に嫌いじゃない。どうしてって、メフィストの弟ってのもあるけど何より一つ一つの仕草が何ともかわいい。…それはさておき彼は棒付きキャンディーをくわえながらとある鍵を手渡してきた。あ、それ知ってる。どこにでも行けちゃう"魔法の鍵"。

「兄上をお探しなのでしょう?どうぞ使ってください。」

ご察しの通りでございます。何ていい弟さんなのかしら。感激のあまり言葉も出ない、まさにこの事だと思う。ほらメフィスト貴方、弟は大切にしておくものよ。使い終わったら返してください、と言いながらどこかに消えていった弟さんに感謝しつつ、適当な鍵穴に拝借した鍵を差し入れた。心拍数が上昇する。ドアノブを一つ捻れば、いつでも貴方に会える。こんな素晴らしい事はない。ギギッ、と音がしてドアは開く。そして一番始めに向こうに見えたのはいつもメフィストが持ち歩いているピンク色の傘。わああやっと会える!

「メフィストッ!」

「………!?…なまえ、何故ここに?」

長身のメフィストの腰に腕を回して抱き締めた。一瞬驚いたような顔をしてから、困ったように笑いながら頭を撫でてくれた。

「会いたかったのっ、メフィスト!」

「………なるほど、アマイモンから"無限の鍵"を借りたという訳ですね?…さて、どうしましょうか。」

生憎今は新人祓魔師の判定会議中なんですよ、と言ったメフィストの言葉にふと辺りを見回せば、たちまち顔に熱が集まった。上級祓魔師のお偉いさん方が数人いて、皆揃いに揃って口をぽかんと開けて私のことを見ている。それもそのはず、私はメフィストがいた状況も分からずいきなりこの部屋に飛び込んできた挙げ句、彼に思い切り抱きついたのだから。大変申し訳ないことをしでかしたと思い、しぼむように小さくなってメフィストの後ろに隠れた。メフィストは顎に手を当て少しの間考え事をしていた。しかしそれからすぐ、右手の人差し指をピンと立てて祓魔師の方々の方に向き直った。

「すみません!私、ただいま急用ができまして、あとは皆さまにお任せいたします!」

"えぇー!?"となかなか歳相応でない声が祓魔師の方々の間から聞こえた。まさか、急用って?状況が理解できないままメフィストの陰で焦っていると、彼に耳打ちをされた。

"ささ、行きましょう、なまえ"

吃驚して、"何処へ?"と問えば、当たり前のような顔で私の屋敷ですよと答えられた。その言葉に嬉しく思う半面、きっと物凄く重要であろう会議をすっぽかしていいのだろうかという疑問が浮かんだが彼の顔を見たら、どうでも良くなってしまった。再度鍵を使い、今度はメフィスト・フェレス邸へ。

「ごめんね、メフィスト。私そんなつもりじゃなかったのに…。皆さんに迷惑かけて。……私ね、貴方に会いたくて、でもすぐにどこか行っちゃうから…。」

「ええ、全くなまえは甘えたさんで困りますねぇ……と言いたいところですが私もここ最近貴女と過ごす時間が少ないことがとても気にかかっていました。なので今日は良しとしましょう。」

「嬉しい!ありがとう、メフィスト!」

再びメフィストに抱きついた私は待ち焦がれたその唇にキスをした。

愛しいなまえに会いたかった、などと言われたら例えあのような場合であっても我慢などできるはずがありません。メフィストのその言葉が嬉しくて嬉して、瞼の裏側が熱くなった。私、貴方がいないと寂しくて、足りなくて、もしかすると死んでしまうかもしれない。そう思いながら今度は先程よりも深いキスを貴方へ贈る。もしかするとまた何処かへすぐ行かなければならないのかもしれないから、今のうちにたくさん味わっておこうと思う。つつつ。私の頬を伝った雫はそっとお互いの唇に触れて流れた。


ん、
  こん


あとがき

企画サイト、酸素さまへ提出!
相思相愛なメフィストさんとヒロインにしてみました。多忙なメフィストさんっていいなあ。
素敵な企画サイトさまに感謝です!