「なまえちゃんなまえちゃん、今日のなまえちゃんの運勢なんやけどな……オレのせいにせぇへんといて?言いにくいんやけど……あのぅ、そのぅ。」

塾での講義が終わり、家に帰ろうと席を立つと、大変やーと言いながら志摩くんが飛んできた。
どうやら志摩くんが私の本日の運勢を占ってくれていたようだ。本日といってももう夕方だから、半分以上本日が終わりかけている。志摩くんの態度からして、今日の私の運勢は最悪らしい。言葉に出す前に態度だけで分かってしまうなんてこれほど恐ろしいものはない。もうそれ以上言わなくていい、悲しくなる。大体占いは、良いときしか信じないんだから悪いときをわざわざ言わないで欲しい。そういう女心というものがが分からない志摩くんではないと思っていたのに。
聞いて聞いてといつになく真面目な顔をして詰め寄ってきた志摩くん。ただの占いでしょ、何もそこまで本気にならなくたって…。

「なまえちゃん、こっからが重大なんや。…こっ、これからなまえちゃんは、悪い男の手によって………あああああオレはそんなんいややあああなまえちゃあああん!!」

え、何だって?途中で言葉が切れたからよくわからなかったんだけど何か不吉な感じがした。なーもーいや。志摩くんの占いはよく当たる。それも女の子限定だが。志摩くんは"なまえちゃんの純潔があああ"と叫びながら私の横で号泣しだす始末。子猫丸くんと勝呂くんが、ごめんなーと言いながら志摩くんの首根っこを掴んで教室を出ていってしまった。ちょっと、あんな中途半端な言葉を聞いて、教室に一人残されるなんて。嫌な予感がしてきたから早急に家路に着くことにする。家に帰ればきっと……いや、家に帰ってからがもしかすると危ないかもしれない。……まあいいとにかく早く帰ろう。夜になると、"悪魔"の活動も本格的になってくるしね。

「お帰りなさい、なまえ!」

「ただいまー。」

ぜーはーと肩を激しく揺らし呼吸を整える私の目の前に、ゆらりと現れたのはメフィストだった。私は訳あって、彼の屋敷に間借りしている。まさか、この人に限って…いやでも。志摩くんのせいで余計な事を考えてしまう。メフィストは言っちゃ悪いが確かに見た目からして変態だ。彼とは部屋は違えども一つ屋根の下。だが一線を越えるような真似は今までにおいてしたことはない。だから、大丈夫だ。と思う。
今日の塾はどうでした?とかご飯出来てますよ。今日着る下着は何色がいいですか?…まったくお母さんか。あ、最後のはどう考えたってお母さんじゃない。変態だ。メフィストは着替えに自分の部屋に向かう私のあとを着いてくる。

「着替えたら食事とりにいくから。…じゃ。」

「本来ならばお手伝いして差し上げたいところですが……まぁ致し方ない。何かあればこのメフィスト、すぐに貴女の元へ駆けつけますから。」

何かあれば、だなんて私が着替える間に隕石でも部屋に直撃でもするのだろうか。そうならばそうと早く脱出したいものだ。実際あり得ない話ではあるけれどね。全くどいつもこいつも不吉な言葉を私に置いていって…。今日もあとすこし…寝てしまえば占いもリセットだ。そう自分を勇気付けながら、スカートを脱ごうとした時だった。

「びよよーん!」

「………っ!………は!?」

目の前に逆さ吊り状態で緑のトンガリ頭が現れた。慌てて脱ぎかけのスカートを咄嗟の判断で上にあげる。この人確かメフィストの弟の…アマイモンだったっけか。なぜ私の部屋の天井から現れたのかは知らないが迷惑極まりない。早くどっか私の知らない彼方へと消え去ってほしい。そんなに見つめないで欲しい。穴空いちゃう。今ピアス開けようか迷ってるのに、耳たぶはおろか顔に穴が開いたらどうするの。

「あ、なまえ。コンバンハー。」

「今すぐ出てってメフィスト呼ぶよ?」

「えー兄上に来られてもなまえは困るんじゃないですか?」

確かにそうだ。一番良いのは貴方がどっかに行ってくれる事だね。虚無界に帰るとかベストアンサーだ。…まさか、こいつ。

「"悪魔"は夜になると活動を本格化させるんです。知ってますよね、祓魔師目指してるなまえなら。…ボク、さっきのなまえの一瞬恥じらう姿を見たら興奮してきました。ボクとヤりましょう、なまえ。」

アマイモンは"しゅたっ"と床に降り立つ時に自ら効果音をつけた。そして恐るべき速さで私の腕を掴み、壁に押し付けた。その反動で、手で押さえていただけのスカートはまんまと足を滑り落ちていった。万事休すというものだろうか、これは。いやはや志摩くん、君はとんだ予言者だ。この状況どうしてくれよう。悪魔に犯されるなんて嫌よ。嗚呼私の純潔がああああああ。志摩くんと同じような言葉が脳内を過る。彼はやはり女心を理解していたようだ。流石志摩くんといったところだ。いやいやそんな暢気な事を考えている余裕は今の私にはない。

「アマイモン!」

アマイモンが長く尖った爪で私の制服を今にも切り裂こうとしていた時、メフィストの制止がかかった。流石は兄上、アマイモンの動きがぴたりととまる。…待て待てメフィストはこの様だと私の部屋の前で待機でもしていたのではないだろうか。

「全くお前というやつは、なまえの部屋に、いやそもそも屋敷に勝手に入ってきてうんたらかんたら…。」

私には脇目もふらず、よっぽど頭にきているらしいメフィストはアマイモンに説教をしだした。何気にメフィストの説教は長い。このままここにいれば私まで、貴女も貴女が無防備だから何だかんだといちゃもんを付けられそうなので早急にこの部屋から着替えを持ち出し退出しようではないか。ここにきて毎度の事ではあるが、フェレス邸さながらの豪華絢爛ディナーが私を待っていてくれる。2人に気づかれぬようこっそりドアノブに手をかけた時だった。

「どこへ行こうとしているのです?」

メフィストによって発見され、呼び止められた。もうだめだ。ディナーはお預けになってしまうだろう。私は悪くないのに。

「さて、なまえ。そんな格好で屋敷を彷徨かれては困りますね。」

上は制服だけれど、下は下着が露出していた。あらま、ついうっかり。早くここから抜け出したいと思うあまりにやってしまいやした。

「………仕方ない。アマイモン、今回は特別だ。私のなまえの躾を手伝わせてやる。」

「ワーイ。」

そんなに重罪だったかな、これ。なんて思いながら、私はニタニタといやらしい笑みを浮かべながらにじり寄ってくる悪魔兄弟に為す術もなかった。
志摩くん、私の身の危険を教えてくれてありがとう。でも、どうやら回避できないようです。嗚呼我が純潔は花とちるらむ。

Calamity Howler


あとがき

タイトルは不吉な予言者。志摩くんの高度な占いスキルを勝手に捏造しました。悪魔兄弟に責められるのいいんじゃないのちょっと。(笑)
甘いんだかギャグなのか解りません。