今日は正十字学園町の中央通りで毎年恒例の夏祭りがあるというので、今年も顔を出そうと支度をしていた。
アマイモンから聖地でもレアアイテムとされている浴衣をこの前奪い取った。しかし女性らしくて可愛らしい浴衣のなまえと並んで、違う意味で可愛らしい浴衣を着ている自分を想像したらなんとなくいけない気がして、違う浴衣に袖を通した。第一、なまえが"はにはにシスターズ"の浴衣を着ている私にドン引きしていたところを見て、これ以上嫌われたくないと思うところだ。
個人的には、個性際立つ"萌え"の素晴らしさを周りに披露するのは大いに結構であるが。

「メフィスト。」

私室のドアを開けてなまえが入ってきた。祓魔師であるなまえはいつも堅苦しい制服を着用しているので、つい先日私がなまえの為に作らせた露出度高めの制服を薦めたところ、平手打ちを食らってしまった。その時の事を思いだし、丁度打たれたところに手をあてながら彼女をちらりと見る。

「……ほう。」

「曖昧な反応で困るんだけど。」

さすが私が見立てただけはある。黒を基調にピンクが所々に散らばる浴衣を身につけたなまえ。

「よくお似合いですよ。」

「ありがと。貴方の趣味を考えると一時はどうなるかと思ったけど、浴衣をもらった時は安心した!」

「この前の制服も、今回の浴衣も全て貴女を考えてのこと。下手なものは作らせませんからね。」

「まだあの制服の事根に持ってるの?」

「まさか!…さぁ、そろそろ時間ですね。参りましょうか。」

なまえはぷくくっと私の隣で笑う。どうやら嘘が見破られてしまったらしい。嘘は得意な方であるのに、どうしてもなまえの前では上手くいかないようだ。




「メフィスト、りんご飴とたこ焼き、あとかき氷とイカ焼き、それと…わたあめも買って!」

着いてさっそく屋台を物色し始めるなまえに振り回されるように歩いていく。意外にたくさん食べるなまえ。そういう所も嫌いではない。
りんご飴を頬張り、片手にかき氷を持ちながら歩くなまえの横を歩いていると、いきなり彼女がある方向を指差し口に食べ物が入っているにも関わらずもごもごと何かを喋った。

「何ですか?」

「ごくんっ。……イケメンさん発見!」

「……はい?」

なまえの目は輝いていて、マンガでよくある目がハートの状態。始まった。これが私の可愛い可愛いなまえの唯一の欠点。
私は、盛大なため息を吐いた。なまえは世間でいう"面食い"というものらしい、それも極度に。私という男がいるにも関わらず、他の男に心を揺らすなんて。

「まったく貴女という人は。」

複雑な心境のままなまえの指差す方向を見ればそこにはどうも見覚えのある緑色がいた。まさかと思い、なまえの視線をもう一度最初から追ってみても間違いなく緑色に注がれている。

(アマイモン…あいつはどうしてこんなところにいる。さらには私のなまえの目を奪うとは何事だ。)

「あの人ちょっと変わった雰囲気だけどかっこいいし、なんか可愛い。」

「(…マズい。)そうですかねぇ?…ささ、わたあめの屋台はあちらですから、早く行きましょう。」

「あ、ごめんなさい…ついつい。そうだね、行こう。」

なまえは食べ物の、甘いものの誘惑にはさすがに勝てないらしく先を歩き出した私のあとをすぐに着けてきた。とりあえずひと安心する。

「兄上!」

「………!?」

「あ、今のイケメンさん!」

突然背後から呼び止められ、歩みを止めることとなった。できれば振り返りたくなかったが、無視をすればしたで後々面倒な事に成りかねない。

「アマイ、モン。」

「え、メフィストの知り合い?…というか今、この人兄上って。」

「アレ、兄上、この女は誰ですか?」

「…………。」

二人に詰め寄られるようになり、一度にどちらにも相手のこと説明をするのが億劫になったので、なまえの腕を掴み、指を弾く。
ポンッと星を飛ばしてその場からアマイモンを残し消え去る。
こんな事をしてもその場しのぎにしかならないことぐらいは分かっている。アマイモンのあの目からして、少なからずなまえに興味を持ったのは間違いない。あとできっと尋ねてくるだろう。



「せっかくイケメンが…じゃなくて、わたあめ買いそびれたじゃない!」

先ほどまでいた私の部屋へと戻ってくる。
本音を言いかけながらも怒っているなまえの手を握って一言謝る。

「貴女には話した事がありませんでしたね。さっきの男は私の弟です。そして地の王で…。」

「え、さっきのがあの"地の王"なの!?」

私の弟という事よりも、地の王がそんな身近な所に出没していた事に驚嘆しているなまえ。
その後イケメンだし、祓えないなー、などと言っていたのでさらにため息を吐かざるを得ない。

「はぁ…なまえには私がいるというのによくもまあそんなに目移りができたものです。」

「ん、あ…ごめん。」

複雑な気持ちのままなまえの浴衣の袷に沿うように指を滑らせ、胸の辺りで止める。

「まったく、悪魔より悪魔らしい方だ。」

「気を付けるって、ね?」

ソファーに腰かけているなまえにゆっくりと近づき迫れば、顔をひきつらせて私を不安そうに見つめてくる。その視線がなんとも堪らない。

「あ…メフィ、スト。」

「私の心境が分からないなまえじゃないでしょう?」

「………。」

「今夜はしばらく付き合ってもらいますよ。勿論、明日の勤務に支障を来さない程度にですが。」

その後、諦めて抵抗を見せないなまえを抱き上げそのままアバンチュールへと誘った。


貴女って人は


あとがき

アマイモンどうした。
面食いな彼女に嫉妬するメフィストさん書きたかったのに…ああもー。メフィストさんと一緒にりんご飴食べたいよ!