「おいなまえ、ちょっと来い!」

「なになに香燐ちゃん?」

香燐の呼ぶ方へ行くと、思わず叫びたくなるような光景が彼女の手の中にあった。

「香燐ちゃん、これってまさか……!」

「ああ。サスケの着ていた服なんだが、破れて着れなくなったものだ。さっきゴミ箱に捨ててあったのを見つけてきたんだぜ。」

「うわわわわわナイスだよ香燐ちゃん!」

二人で顔を見合せて笑う。どちらも鷹のリーダー格、サスケの事が大好きだ。大好き過ぎるあまり、もはやストーカーになってしまっている今日この頃。
なまえはサスケの服を手に取りこれ以上ない笑顔で頬擦りする。

「うんわぁサスケの匂いがするー!」

「あったりまえだろ。…つうかなまえ、分かってんだろな?」

「勿論!この事は誰にも言わないよ。」

「よし!それでこそ親友だ!」

これまでに収集した二人のサスケコレクションは膨大な量になっている。
サスケもサスケで、破れたり壊れたりしたら直ぐさま捨てるというセレブ的思考をしている。そのお陰で二人にこのような幸せをもたらすこととなっている。
さらには、二人から寄せられる危険な愛情にサスケは気づいていないらしい。鈍感にも程がある。恐るべしうちは一族の末裔。

「…それでだ。これを誰にも見つからないように、今からいつもの場所へ置きにいく。」

「了解っス、姉さん!」

なまえは香燐に向かい、シュビッと敬礼をする。
いつもの場所とは、サスケコレクションを貯めておく二人だけの秘密の場所。そこは鷹の潜伏するアジト内の隠し扉から行けるようになっている。
ここがもしも誰かに見つかった日には、もう弁解のしようがない。二人で、そうなったらもう自殺するしかないね、と前に話をした事があった。
しかしそんな大事な場所に何も施さない二人ではない。封印術や結界術の得意ななまえが、無駄に労力を使い何重もの結界で覆うそこには何人も入ることはできない……らしい。一応なまえ曰く絶対防御。端から見ればそこまでする程の物か、と思われそうだが二人にとってサスケコレクションは命と同等の価値をもつ。

なまえがサスケの服を大事に持ってその場所まで移動しようとした時、香燐が叫んだ。

「まずい…!水月とサスケがこっちに来るぞ!」

香燐も無駄に神楽心眼をフル活用させていた。

「何だって!?ど、どうしよう逃げようか?うわわわわわっ!!」

窮地に追いやられパニックになってあたふたしだすなまえ。取り敢えず手に持っていた新たなコレクションを後ろ手に持った。
今いるアジト内の廊下には隠れるところなど無く、ただただ立ち尽くす事しかできない。

「でもさァーこの前のサスケの寝相ヤバかったよ?」

「うぜェな。そんなものは知らない。お前なんて蹴れば直ぐに水溜まりになるだろが。」

サスケと水月の会話が聞こえてくる。それぐらいの距離にまで近づいてきているという事だ。
それにしてもなんて会話をしているんだろうか。
お互いに話が噛み合っていない。

「香燐ちゃーん…!」

「平静を保て!もしくは装え!決して狼狽えるんじゃねェぞ、ウチらは悪い事なんて何一つしてねーんだからな!」

「さ、さすが香燐ちゃん!」

なまえと香燐は、その場を上手くやり過ごそうとする。
ついにサスケと水月が廊下の角を曲がり、こちらへとやってきた。

「アレ?なまえと香燐じゃん。何でこんな所にいるんだ?」

「「べ、別に…。」」

「ふーん。でね、サスケ……ってサスケどうしたの?」

水月はなまえと香燐がいた事に特に気に留めるような感じではなかったよう。二人とも取り敢えず安心する。しかし、肝心のサスケの視線がなまえの後ろに回された手ね辺りに注がれている事に、香燐はギクリとした。
なまえはコレクションを必死に隠しているつもりなのだろうが、腕の脇辺りから少しはみ出てサスケから見えてしまっていた。

「(おいいいい、なまえのバカヤローッ!服がサスケから見えてんじゃねェか!)」

「………おい。」

「………っ何だ、サスケ。」

すかさず突っ込んでくるサスケになまえも香燐もビクリと背筋が伸びる。
その時の香燐はあくまで冷静だった……のだろうか。

「なまえが後ろ手に持っているのは、一昨日ゴミ箱に捨てた筈のオレの服じゃないのか?」

「(まずーい!香燐ちゃんどうしよどうしよどうしよーうッ!)」

目で必死に香燐に訴えたが、香燐は香燐で動揺しまくっている。

「いやあるわけないだろ!それェ。コノヤローがァ!」

動揺すると支離滅裂になる香燐の癖が出ている。
なまえはそれを横目で見て冷や汗が止まらなかった。

「あー何?もしかしてサスケの服とか集めてたりするのかい?」

「………な、そんな事は…!」

ニヤニヤしながら聞いてくる水月に、なまえは何も言えなくなってしまう。
しかし、とっさに先ほどの香燐の名言を思い出す。

『ウチらは何も悪い事なんて何一つしていない』

そうだ、捨ててある物を拾って何が悪いの。

「サスケ、言っておくけどあなたが大好きでこんな事してる訳じゃないんだからね!」

「………?」

心とは裏腹に、口にしてしまった言葉。自分でも何を言ったか分からなくなる。多分、皆も同じだろう。証拠にサスケが思い切り眉を潜めていた。
開き直ったところまではよかったはずなのに。

「そ、そうだ!だからお前等は早くどっかいっちまえ!」

「サスケが捨てた物を再利用するんだよ!何にって?それは教えられない!」

無理矢理香燐も乗ってくれた。
香燐よりも支離滅裂な言動に加え、自問自答までしたなまえに、サスケと水月は顔を見合せると、構ってられないというように二人の横を通過していく。

難は、去った。


「あ、危なかったね…。バレちゃったかな…?」

「っ分かんねェ。……つーかなまえ、お前結界張って服を見えなくすれば良かったのに。そういう結界術持ってんだろ?」

「……あ。」




あとがき

第3弾は仲良し香燐ちゃんと、サスケくんの服を拾っていざこざ。
原作で彼の衣装が頻繁に変わって、その度に鼻血出そうになる夜萌です。