この季節になると王宮のいたるところで同じような話題がちらほらと聞こえてくる。
忙しい身の自分にとってはもうそんな季節かと、一年の早さを実感してしまう。
それと同時にこれからきっと待ち受けているであろう修羅場に向けて身構えをし始める。
毎年、白羊塔の政務室に自分宛に贈られてくるチョコレートの数と言ったら数え切れないもので、それだけ多くの方に慕われているということは悪い気もしないが何しろ食べきれない。
前に部下のショコラッテに少し分けてやろうと思ったが、女の子たちの気持ちを踏みじるんですかジャーファルさんなんて言われてしまった。確かにそう思われてしまうが、自分としては決して踏みにじっているわけではない・・・。食べきれずに捨てられてしまうのでは彼女たちもチョコレートも可哀想だと思ってのことだった。

そんな壮絶なバレンタインデーが今年もやってこようとしている。
女性が好きな男性へチョコレートやクッキーなどのお菓子を贈るといったことが一般的とされてきたが近年、男性から女性へ贈るという傾向があるようだ。巷ではそれを逆チョコというらしい。

そんなことを考えていて、ふっと思い浮かぶのはショコラッテのこと。
彼女は自分の部下として大変よく働いてくれているので日頃の感謝を込めて・・・という名目で本当は実は彼女のことの慕っているというかそのようなことだ。いや、曖昧なものではなく、彼女のことは好きだ。異性として。もちろん、日頃の感謝もたくさん込めて。

少し頑張ってみようか。
お菓子など作ったことがないが、本を読めばきっとできるはずだ。
そうしてショコラッテにチョコをあげようと決心してから、忙しい政務のあいだを縫ってチョコ作りの練習をすることにした。どうせ作るなら美味しいものをあげたいという一心である。

「おっ、お前が厨房に立つなんて珍しいじゃないか。何を作っているんだ、ジャーファル。」

「し、シン・・・!」

練習中にずかずかと借りていた厨房に入ってくるシン。チョコが入ったボールを覗き込み、顎に人差し指をあてながらほうほう、と頷いている。

「さては・・・ショコラッテだな。」

「・・・え!?」

まさかの図星回答に驚きを隠せない。恐ろしい人だ。

「隠さなくてもいいんだぞ。お前がショコラッテのことを好いていることはよく知っている。それにしてもなかなか手が込んでるじゃないか。」

え、なんで知ってるの!?さらにはそれを当然のことのようにして話していくものだから、焦りはピークに達する。

「あ、あの・・・シン?」

「ん?どうした?」

「それ、ショコラッテには言っていないですよね?」

「ああ、流石にそこまではしないさ。」

ですよね、よかった。ええい、もうこの際シンにショコラッテのことが好きだということは知られていてもいい。ショコラッテに自分から伝えるということが大切なのだ。シンはそこはきちんと弁えていたようだから流石といいたい。

「彼女に渡すというのはなかなか厳しいものがあるかもしれないが・・・がんばりたまえ、ジャーファル!」

「えぇ!?それはどういうことです・・・か?」

シンはその質問には答えることもなく、はっはっは、と笑いながら厨房を出て行ってしまった。それにしても不吉な一言である。なにがそんなに厳しいのか・・・。ショコラッテには、嫌われてはいないはず・・・。どうしてなのだろうか。

そんな不安を抱きながらも、チョコ作りの練習は続く。
そうして早いものでバレンタインはもう翌日に迫っていた。

「ふう・・・。」

我ながらよくできたと思われるガトーショコラ。
最初は焦がしてしまったりドロドロのままだったりとうまくいかないことが続いたが、くじけずに練習を続けてきた甲斐があった。

さて、あとは明日の最終試練、ショコラッテにこれを渡すのだ。

なんて言って渡そう、どのタイミングで告白したら良いのだろう、どこで渡せばいいか・・・。
いろいろ不安要素がありつつも、政務に戻る。
ふと書類に判を押しているショコラッテの横顔が目に入ると心臓が騒いだ。
いつもとは違う、胸の高鳴り。
彼女は受け取ってくれるだろうか。
シンの言葉の意味はなんだったのか。

いろいろ気になることはあるが、明日は絶対に成功させようと心に誓った。







For you! 前編 


バレンタイン企画第一弾は続きます。
乙女なジャーファルさんが書きたいという思いでいろいろ女々しくなった。
乙女なジャーファルさん可愛いと思うの。

後編へ続きます。