「今日から私はこの学園の理事長に就任します!よろしくッ!」
「…ハイ?」
ため息。何がどうなっているのだろうか。虚無界にいるはずの私の妹が、今理事長室の私の椅子に足を組んで我が物顔で座っている。
それだけならまだしも、この学園の理事長になるなど、意味不明な事を言い出す始末。
「えー私が理事長になった暁にはー、女の子の制服のスカート丈は膝上25センチを校則で定めます!えー、男子についてはー……分かりません何でもいいです。」
途端、デスクの上に立ったナマエが叫んだのは何とも理解し難いもので、思わず頭を抱えた。あああナマエの足が突っかかって、うさ吉くんのフィギュアが倒れてしまった。これがアマイモンだったらただではおかないものだが、相手はある意味で最強の妹、ナマエ。言いたいことを喉の当たりで飲み込む。
「アマイモン!」
「ハイ兄上スミマセン。ナマエがあまりにも可愛いらしく頼んできたので、連れてきてあげま……しまいました。」
いつからかは知らないが私の後ろでナマエの様子を見ていたアマイモンの名を呼ぶと、まだ何も言っていないというのに謝ってきた。全くこいつというやつは。お陰で粗方どうしてこうなったか分かったような気がする。なるほど。
アマイモンは、私に叱られると思ったのか無限の鍵の無駄な使い方をして、何処かへ行ってしまった。あいつには後で説教をしてやればいい。さてと、とナマエの方に向き直る。
「だって、お兄サマは物質界にお熱で私のことなんて気にも止めてくれないんですものー。ナマエは虚無界の屋敷に幽閉されて、毎日が退屈でしたのよ?」
汐らしい言葉の羅列とは裏腹にナマエはどこか策略じみた笑みを見せる。確かに、今のところ虚無界に戻る気など更々ないが、妹を放置してそれでいいとは思っていない。地の王である弟は、よく動いてくれるので呼び出すことはあるが。それにしても父上(サタン)がナマエの事をとても可愛がっているとはいえ、幽閉とは言葉が少し過ぎるのではないだろうか。
「とにもかくにも、お兄サマはゆっくり休んでて!私に任せて!はいバイバイ!」
「ちょっと待ちなさい。」
「なに?私と遊んでくれるなら、理事長の件は考え直してもいいけど。」
そういって微かに、いやかなりの期待を込めた目線をこちらへ向けてくるナマエ。言いたいことは分かる。ナマエにとって、理事長の座を得たいなど心から望んでいる訳ではないことも分かる。手のかかる妹ではあるが、そうやって無駄なところに必死になる姿がどうしようもなく愛らしい。
「…仕方ない。遊んであげましょう。さぁ何して……なっ!?」
「やったぁああああッ!!」
最後まで言葉を紡ぐことが出来なかった。目の前に星が飛ぶような衝撃と共に、頬に何やら柔らかい感触を感じた。
「お兄サマだいすき!!」
ナマエが私の話の途中で抱きついてきて、頬にキスをしたが、勢い余って額と額がぶつかってしまったらしい。
「はいはい。」
今日の午後は特に重要な会議は無かったはずだ。手袋を取ってナマエの頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めていた。その姿はさながら小動物。久々にこうして会った妹と遊んでやるのも悪くないと思いながら、その手を取って正十字の街へと誘った。
わたしを思い知れあとがき
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おまえもかさまへ提出!
メフィストさんを困らせてたじたじにさせてやりました(笑)
楽しく書かせていただきました!