昨日塾の演習が思ったよりもキツくて、寮に帰ってきたらすぐにベッドにダウンしてしまったらしい。今日は、休みだ。朝…といってももう昼近いのだが、オレは制服を着たままベッドへ寝転がっていた。ふと外がいつもより眩しく感じ、起き上がって窓の向こうをよくよく目を凝らして見てみるとなんと辺り一面が雪景色になっていた。そういえば雪男とジジイと一緒に雪だるま作ったっけなぁと今ではもう叶うことはない思い出にしんみりしていた。そういえば雪男がいない。任務にいったのだろうか。取り敢えず普段着に着替え、朝食ならぬ昼食を取りに食堂へ向かうとウコバクが、遅いじゃないかと言わんばかりに片足をだんだんと鳴らしていた。ごめんと謝りつつ、キッチンの方を何気なく見てみるとイチゴやケーキスポンジなどがステンレス製の調理台の上に乗っているのを見つけた。そしてその数秒後、とあることを思い出す。

「今日、オレと雪男の誕生日じゃん!」

味噌汁を啜りながらそう言うとウコバクは、うんうんと激しく頷いていた。そして、形良く焼けているケーキスポンジの方を指差し、楽しみにしててと言う様に、ニコリと笑っていた。

「りーんーッ!」

食事を終えて、歯を磨こうと廊下に出た時、前方から聞きなれた可愛らしい声がした。本来ならばこんなところに来るはずのない人だから、驚いて何も言えなくなっていた。

「あれ、もしかして今起きちゃった?」

「……あ、あぁ。まぁな。今日は休みだし。」

ナマエ。塾で友だちになった女の子だ。こいつは見た目がオレよりバカっぽく見えるくせに意外と要領が良くて、勉強もできる。色々こいつに教えてもらうこともあって、そんなことを繰り返しているうちにこいつの事をオレは好きになっていた。だから、さっきも驚いて言葉が出なかったんだ。

「燐、お誕生日おめでとう!」

ピンク色の包装紙で可愛らしくラッピングされたプレゼントをオレに差し出してきた。生まれてこのかた、女の子からプレゼントはおろかお祝いの言葉すら貰ったことのないオレだったけど、今この瞬間この世に生を受けた喜びというやつを心から感じた。オレ生キテテヨカッタ。ナマエは誰よりも先にオレにおめでとうを言いたかったらしい。

「ありがとな、ナマエ!」

お礼を言いながら、プレゼントを受けとる。なんか雪男に勝った気がする。オレにもついに恋の女神が微笑んでくれたんだ。

「そういや雪男、朝から見てねぇな。」

「あ、奥村先生はね、


一足先に塾のみんな主催の、誕生日会に行ってるよ!自分の誕生日なのに、会の準備をやりたいって言っててさ…すごいよね!」

「あ、そう…なの。」

弟よ、どうしてお前はいつも兄であるオレを置いていくんだ。起こしてくれたっていいじゃないか。ナマエの言葉によって、浮かれた気分は風船がしぼむように落ちていった。ナマエはオレに一番先におめでとうって言ってくれたけど、もしかしてそれって、雪男にも一番先におめでとうって言ったんじゃあるまいな。全く罪な女の子だな。可愛いぜ、ナマエ。

「でね、燐があまりに遅いから心配になって呼びに来たの。一緒に今から塾に行って、パーティーしよ!主役が揃わなきゃ、始まらないからね!」

そう言ってオレの腕を引くナマエ。そしてこの笑顔がオレのためだけのものだったらどんなにかいいだろうと思ったが、今はそんな下心は場違いだ。塾のみんなが待つパーティーへ、ナマエと一緒に急いで向かった。

ドアを開けた瞬間、おめでとうの声と盛大なクラッカーの音と紙吹雪で出迎えられた。

今日はきっと忘れられない楽しい1日になりそうだ。


さながら天使みたいに


あとがき

奥村ツインズお誕生日おめでと!
んでこのお話の設定は言われないと良く分からない、
雪男←ナマエ←燐
みたいなゆるゆるな三角関係が成り立っているはずなんです、っていう蛇足な補足でした。