どこか遠くの方から微かに聞こえてくる、心地良いピアノの音にそっと瞼を閉じて眠りへと落ちていく。



あるところにピアノが大好きな女の子がいました。女の子はピアノを弾くことも、聞くことも大好きでした。しかし、そんな女の子のお家にピアノはありません。お家はとても貧しくて、ピアノを買うお金は愚か、毎日の食事ですら儘ならないのです。女の子のお父さんは、お空の上に行ってしまったのでもう女の子のところへは帰ってきません。女の子のお母さんは毎日、お父さんではない知らない男のひとのところへ行っていて、お家に帰ってくることはほとんどありません。

女の子は独りぼっち。今日も女の子は木枯らしの吹き込むぼろぼろのお家で、暖炉の灯る暖かなお家でピアノを弾くことを夢見て歌を歌います。女の子はピアノと同じくらい、歌うことも大好きなのです。

そんなある日、ふらふらと用も無いのに街へ出掛けた女の子。赤く霜焼けている裸足のまま、雪がちらつく冬の街を歩いていきます。すると一人の男の子と出会いました。灰色のふわふわの髪の毛を持った、とても優しそうな男の子です。女の子は、男の子の着ているものを見てすぐに、この男の子がお金持ちのお家の子だと分かりました。男の子は女の子を見るなり、その悴(かじか)む手を取り、笑いかけました。そして、もう大丈夫と何度も女の子に言いました。しかし最初は、乗り気ではなかった女の子。男の子があまりにも一生懸命にお話をするものだから、女の子はついに男の子について行くことを決めました。

男の子に連れられてやってきたのは、それはそれは立派なお屋敷でした。大理石の床やふかふかで大きな絨毯の上など歩いたことが無かった女の子は、驚きと感動で声が出ませんでした。これからここが君の家だよ、男の子は女の子に笑いかけます。女の子は嬉しくなって、頬は薔薇色。そしてお部屋の中をぐるりと見回します。すると、そこには一台のピアノがありました。女の子は目を輝かせてピアノの近くへと駆け寄りました。男の子は、そんな女の子を見てピアノがきっと好きなんだと思い、ピアノを弾かせてあげました。ぽろん、ぽろろ、ぽろん。とても上手とは言えない女の子のピアノでしたが、男の子の心にその音色はじんわりと染み渡っていきました。そして、今度は男の子が女の子にピアノを弾いて聞かせてあげます。男の子の指はまるで鍵盤の上でダンスをしているかのように軽やかに動きます。それに目を見張らせていた女の子。やがて、女の子は男の子のピアノの音に合わせて歌を歌い出しました。そうすると男の子はびっくり。女の子の歌声は、天使のように可愛らしく、ガラス玉のように透き通っていて、とても綺麗だったのです。
その日からというもの、お屋敷にはピアノの音と歌声が絶えることなく響くようになりました。



それから何年かが過ぎていきました。男の子も女の子も大きくなりました。しかし変わらず今日も屋敷にはピアノの音と歌声が響いています。
タキシード姿の男の子が弾くピアノの傍ら、女の子がそれはそれは美しい純白のドレスを着て歌を歌っています。その曲は、愛し合う2人のためにつくられた特別な曲。
そう、今日は男の子と女の子が一生の幸せを誓う、素晴らしい日なのです。


ring hollow


あとがき

冬だからこういうあったかいのにしてみました。実はやももピアノをたしなみますよとか。