夢の中のナマエは決まって笑っていた。
行ったことも見たこともない場所で、たくさんの花に囲まれて、ナマエはボクの名前を一生懸命呼んでいた。それに応えているのに、きみの声はどんどん遠ざかっていく。何とも呆気のないものですね。ボクは、まだナマエの事を愛しています。
「ボクは悪魔です。」
それは両親を悪魔の手によって殺されたナマエにとって、どんなに残酷な言葉だったか計り知れない。別に隠していた訳ではないが、このままずっと話さないでおいたら、きみに嘘をついているような罪悪感に苛まれて仕方なかった。
打ち明けた時のナマエの表情は、怒りを帯びていてボクは怖くなった。ボクは隠してなどいないつもりだったけれど、それは単なる言い訳に過ぎなかった。どうして今まで話してくれなかったの。そう言ってボクの前から姿を消したナマエ。それっきり。やはり、ボクは心のどこかでナマエに自分が悪魔であるということを知られるのを恐れていたんだ。その時になって、気づいた。ナマエに渡そうと思い、彼女の好きだと言った花を手の中で握りしめた。花弁が二枚、三枚落ちた。ナマエに嫌われたかもしれない。でもボクはナマエが好きだ。きみの笑顔が戻るその日までボクはずっと待つ。きみがボクに笑いかけてくれる日まで。
毎晩きみの眠るその枕元に、きみの好きな花を摘んできてそっと置いておく。ボクにはこういうことしか思い付かなかった。でも、ナマエがそれに気づいていつの日にかボクの思いと願いが届いてくれればいい。そして来る日も来る日もボクはきみに花を贈り続ける。
ただ、きみにもう一度ボクに笑いかけて欲しいその一心で。
季節は巡り、辺りは雪に包まれる頃。きみの好きな花はどこを探しても見つからなくなった。もう、きみに花を贈ることができないのか。そう思ってどうしたらいいか分からなくなった。きみを思う気持ちだけは朽ちることはないというのに。
生まれて初めて流した涙が雪を溶かしていった。そんな時。
「アマイモン。」
幻かと思った。ナマエがボクを呼ぶ優しい声。またどうせ夢なのだと、俯いたままでいれば再度ボクを呼ぶナマエの声。ゆっくりと顔を上げてみれば、あれほど待ち望んだナマエの笑顔。途端、視界が涙で歪んだ。ナマエはごめんなさいといいながらボクを抱きしめた。ああ、生まれて初めての涙がきみのための涙で本当に良かった。
そっと見つけたナマエの手のひらの中、ボクが贈った花が、しおりにされて握られていた。
怯えた声で愛の言葉をあとがき
感情豊かなアマイモン。一途で可愛いアマイモンを書い…けた?