■ ウェディング1 ■

※注意 年齢操作/佐久鬼/円←鬼要素あり/1はエロなし


 円堂 守が結婚した。
 勿論、その結婚式にはかつての仲間たちが招待された。
 似合わないタキシードに身を包み、どこか恥ずかしそうに笑う円堂の隣には真っ白なウェディングドレスを身に纏い幸せそうな表情を浮かべるあの子の姿。
「おめでとう」
 優しげに目を細め、幸せそうに腕を組む新郎新婦にそう告げる鬼道。
「はは、サンキュ」
 円堂ははにかみながらそれに答えた。
 遠目でそんな鬼道と円堂のやりとりを見ていた佐久間は、やるせない思いを奥歯で噛みしめた。

 サッカーに明け暮れていた中学生時代から、早十年。
 大学も卒業し、今では普通のサラリーマン。
 佐久間は一日のほとんどを会社で過ごし、ただ寝るためだけに帰宅するような多忙な毎日を送っていた。
 そんなある日の深夜。
 ベッドで眠っていた佐久間は、ドアチャイムの音で目を覚ました。
 重い瞼を擦り時計に目をやると、針は深夜二時を回っていた。
 非常識な来客に腹を立てながらも、佐久間は玄関まで足を運ぶ。
 ドアスコープを覗くと思いもしない人物が玄関先に立っていた。
 どこかうつろな赤い眼差し、雨に濡れたドレッドヘアー、真夜中の訪問者は佐久間の想い人である鬼道その人だった。
 佐久間は慌てて鍵を外しドアを開ける。
「鬼道、どうしたんだ」
「佐久間、遅くにすまない」
 そう言って、鬼道は目を落とす。
 佐久間はそんな鬼道の肩を掴み、家の中に招き入れる。
 触れた背広の肩は雨に濡れひんやりとしていた。
 早くタオルを持ってこなければ、そんなことが佐久間の頭をよぎる。
「すぐにタオルを持ってくる」
 そう言って鬼道に背を向けるが、佐久間はその場から離れることができなかった。
 鬼道が、佐久間の上着の裾を掴んだからである。
「佐久間、お願いだ。そばにいてくれ」
 鬼道の口から弱々しく吐き出された言葉に、普段の荘厳さは欠片も感じられない。
 今にも消えてしまいそうな声で、呟かれた言葉に佐久間は耳を疑う。
「でも、鬼道。そのままだと風邪を……」
「いいんだ。一人にしないでくれ」
 そう言って、鬼道はぎゅっと強く佐久間の上着を握りしめる。
 佐久間はゆっくりと振り返り、雨に濡れた鬼道の体を強く抱きしめてやった。
「佐久間、お前まで濡れてしまう」
 そう言いながらも、鬼道は甘えるように佐久間の胸に顔を埋める。
 佐久間はそんな鬼道の背中を慰めるように優しく撫でてやった。
「構わない。それより何があったんだ、鬼道」
 問うと、一瞬息を飲み込む鬼道。
 顔を上げ佐久間を見ると、赤い双眸を切なげに歪めた。
 綺麗な深紅の瞳に涙の膜が揺らぐ。
「円堂が結婚するそうだ」
 形の良い唇がかすかに震え、吐き出された言葉。
 その言葉で佐久間は全てを悟った。
 いや、悟るもなにもずっと昔からわかっていたことだ。
 ただ、それを認めたくなかった。だがしかし、それを認めざるを得なくなってしまった。
 鬼道が円堂に友情以上の好意を抱いているという事実。
 そう、十年前からずっと、鬼道は円堂を愛し続けていた。
「いつか、こういう日がくるとは思っていた。円堂が幸せになるなら、俺は喜んでそれを受け入れられる、そう思っていたのに……。ダメだな、上手く笑えないんだ」
 鬼道の頬を伝う涙。
 眉を寄せ悲痛な表情を浮かべる鬼道に、佐久間は胸が苦しくなる。
 佐久間は奥歯を強く噛みしめ鬼道の背中に回す腕に力を込めた。
 なぜ、鬼道が愛したのが円堂だったのか。なぜ、自分ではなかったのか。
 もしも、鬼道が自分を愛してくれたなら、自分は絶対に鬼道を悲しませるようなことはしないのに。
 今、こんなにも苦しんでいる鬼道に、自分は何もしてやることができない。ただ、こうやって鬼道を抱きしめることしかできない。
 それが、悲しいくらいに歯がゆい。
 鬼道が円堂に想いを寄せていた十年間、同じように鬼道に想いを寄せていたのだから、鬼道の辛さが痛いくらいに佐久間にはわかる。
 成就することがないからこそ、相手の幸せを心から願っている。
 願っているのが真実だとしても、やりきれない思いはどこまでも胸を締め付ける。
 そんなジレンマに苦しむ鬼道を救ってやりたいと思えども、鬼道を浮上させるだけの言葉をもたない佐久間はただ唇を噛むことしかできない。
 口の中に広がる鉄の味。
 雨に濡れた冷たい鬼道の体。
 アナログの時計が無情にも時を刻む音。
 暗澹たる空気に包まれた玄関先で、佐久間はただ鬼道を抱きしめ続けた。

 to be continued





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