まるで人間のような外見、だがしかし、決して人権を認められることのない生き物。 その生き物は人間のような容姿を持ちながらも、人間にはない愛らしい三角の耳と尻尾を持っている。 ペットショップでも購入が可能なその生き物の名前はネコ。 その愛らしい外見から、性の慰み者として飼われる事が多い愛玩動物である。 大学の帰り道に必ず通るペットショップ。 そのショーウィンドウに飾られている一匹のネコが、源田は気になってしょうがなかった。 透き通るような白い肌、つり目がちなアイアンブルーの大きな瞳が印象的な子ネコ。 そのネコは、他のネコとはまったく毛色が違い、客がショーウィンドウの前に来ても決して媚びるような真似をしない。 そのネコはいつだってつまらなそうに隅で膝を抱え、諦めたようにどこか遠くを眺めている。 故に買い手がつかないのか、随分と長いことそのペットショップで飾られていた。 ネコの成長は早い。数ヶ月で人間でいうところの中学生くらいの姿にまで成長する。 ある程度まで成長すると、外見の成長は止まりあとは緩やかに老いていく。 他の動物にせよ何にせよ、小さく可愛らしいうちに買い手がつかないと価値はどんどん下がっていくものだ。 その子ネコもまた当初の価格よりだいぶ値段が下がり、今では源田の貯金でも買えるくらいの値段になっていた。 値段が下がっても買い手がつかなかった場合、この子ネコはどうなってしまうのだろう。 そんなことを考えながらショーウィンドウの前で立ち止まると、一緒に帰っていた佐久間が面白そうに口を開く。 「このネコ、まだ売れ残ってんだな。そろそろ処分されるんじゃねーの」 「なっ!」 処分、という物騒な言葉に源田は目を剥く。 「しょ、処分とは、どういうことだ?」 「何、源田。それを俺の口から聞きたいのか?」 佐久間が楽しそうに目を細める。 そして、嬉々として開かれた口から放たれる言葉はキレイな顔からおおよそ想像もつかない程グロテスクな単語の数々だった。 佐久間の言葉に軽く眩暈を感じた源田は思わずショーウィンドウに手をついた。 冷たい硝子の感触。 硝子の向こうに閉じ込められた子ネコは、自分の未来を知ってか知らずか、やはり今日も諦念を滲ませたアイアンブルーの瞳で遠くを眺めていた。 次の日、源田はアルバイトでこつこつと貯めた貯金を全額引き出し、あの子ネコがいるペットショップへと向かった。 そして、迷うことなく件の子ネコを購入したのだった。 さて、ネコを購入したものの、源田はネコの飼い方というものを詳しく知らなかった。 外見こそ人間と大差ないものの、ネコはあくまでネコ。何を食べるのか何をすれば喜ぶのか、源田には皆目見当もつかない。 とりあえず、自分が暮らす1DKのアパートに子ネコを連れて帰った源田は椅子に座り腕を組む。 子ネコはフローリングの床に膝をつきそんな源田を見上げていた。 「えーっと、名前は……明王っていうのか」 血統書のような紙に書かれた名前を口ずさむと、子ネコの耳がぴくっと動く。 源田は明王の柔らかな髪と耳を撫でてやりながらへらりと笑った。 「俺は源田 幸次郎。よろしくな」 明王は一瞬目を大きく開くが、すぐにぷいっと顔を反らしてしまう。 そして、部屋の隅に歩いて行きそこで体を丸めて源田に背を向けた。 さて、最近ではペットに服を着せる飼い主も多いようだが、このネコの場合どうなのだろうと、源田は頭を抱える。 まったく人間と大差ない外見。服を着ていない状態で、目の前をうろちょろされては目の毒だ。 白くて華奢な体、薄い胸を飾る淡い色の突起。そして、歩くと心もとなく揺れる幼い性器。 これから一緒に暮らしていく以上、やはり服は着せたほうが良いと源田は心の底から思った。 しかし、今は明王に合うサイズの服がないため、自分のTシャツをクローゼットの中から引っ張り出し明王に着せてやる。 中学生くらいの容姿である明王に、大学生な上にどちらかというと体格の良い源田の服はあまりにも大きすぎた。 肩幅の合っていないシャツがずり落ち、鎖骨と肩が露になる。 とりあえず、扇情的な乳首と可愛らしい性器を隠すことは出来たが、これはこれで欲を煽られているようで源田はため息をついた。 どちらかというとそういった方向で愛玩される生き物なだけに、幼いながらも放たれる色気は凄絶なものだった。 飯は自分と同じものを朝昼晩の三回与えてやることにする。 問題は寝床である。 ネコと割り切ってしまえばいいものの、源田はそうすることができなかった。 人間とほぼ同じような外見の明王に、タオルケットを一枚だけ与えて床で寝ろなどと言えるほど源田は非情にはなれない。 結局、自分が寝ているベッドを明王に明け渡し、自分は来客用としてクローゼットの奥にしまっていた布団を一式引っ張り出して、床に敷きそこで眠ることにしたのだった。 次の日、明王と一緒に朝食をとり、すぐに食べれるような昼食をテーブルに置き源田は大学に行った。 明王を一人、部屋に残していくのは心もとないが、それを理由に休むわけにはいかない。 「おなかが空いたら、テーブルの上のパンを食べてくれ。あと、冷蔵庫の中も勝手に開いてくれてかまわない」 そう言って、明王の頭を軽く撫でた源田は家をあとにした。 その日の講義はまるで頭に入ってこなかった。 一人で残してきた明王のことが心配で心配で、ため息ばかりが口を出る。 あまりため息ばかりついていたせいか、隣に座っていた佐久間に「ウザい」と蹴りを入れられる始末。 その日予定されていた午後の講義が休講にになったため、源田は大学の近くのデパートで子供服を購入し急いで帰宅した。 家に帰り、テーブルに目をやると一口も手をつけられていないパンが目に入る。 そして、昨日明王に着せてやったはずのTシャツが粗雑に脱ぎ捨てられていた。 心配に思い部屋の隅を見やると、体を丸めて眠る明王の姿が目に入り源田はほっと息をつく。 そんな明王を起こさないよう、細心の注意を払いベッドに腰をかけた。 明王と暮らし始めてかれこれ一ヶ月。 明王は相変らず、そっけない態度を崩さない。 そして、なぜかしら服を与えても決してそれを着ようとしない。無理やり着せても、すぐに脱いでしまうので源田は参っていた。 しかし、一応、源田のことを飼い主であると認識はしているらしく、明王は健気にも源田と一緒じゃなければ食事を摂ろうとしない。 そんな可愛い一面を見せられ、ますます明王に入れ込んでしまう源田。 気がつけば立派な愛ネコ家となっていた。 さて、ある晩のことである。 なかなか寝付けない源田は、布団の中で何度か寝返りを繰り返していた。 大学にバイト、それなりに忙しい毎日を送っている源田が寝付けない理由は一つ。 それは、源田自身が一番よく分かっていた。 そう、明王を飼い始めてから源田は一度も自慰をしていないのだ。 というのも、この狭い1DK。明王を飼う前はベッドでいそしんでいたのだが、今となってはそうもいかない。 トイレ、お風呂、どこかしでしようと思えばできたかもしれないが、すぐ近くに誰かがいると思えばなかなか集中できるものではない。 故になかなか吐き出すことができない欲は、源田の中に溜まりに溜まっていた。 熱いため息をつき、もう一度寝返りを打つ。 すると、ギッと隣のベッドが軋み、背中にぴったりと温かいものが寄り添う。 源田はごくりと息を飲んだ。 生温い粘膜がぺロリと源田のうなじを舐る。 「な、溜まってるんだろォ?」 その声が誰のものなのか、源田は一瞬戸惑う。 低いながらも透き通るような心地の良い声。 この部屋にいるのは自分と明王だけなのだから、きっとこの声は明王のものなのだろう。 初めて聞いた明王の声に、源田の鼓動が高鳴る。 「あ、明王……?」 「なぁ、あんた何で俺のこと抱かないんだ?」 背後にいた明王が源田の上に跨り小首を傾げながら問う。 薄暗い部屋に差し込む月明かりに照らされた明王の細い体がなんとも妖艶で、源田は思わず目を反らす。 「そのために飼ったんだろォ? 違うのか」 「違う……俺はっ」 自分の上唇をぺろりと舐めた明王は、源田の喉仏を甘噛みする。 「同情、って言ったらこの喉食い千切るぜぇ?」 「っく……」 アイアンブルーの瞳に射られ、源田は小さく呻く。 自分が明王を買った理由。 それは同情だったのだろうか。 確かにショーウィンドウの中で膝を抱える明王を可哀想に思った。 だが、それだけではなかった。 諦念の色を滲ませ、遠くを見る明王に心を惹かれていた。 透き通るような白い肌、大きなアイアンブルーの瞳。それら全てを失いたくなかった。失うくらいなら自分のものすればいい。 だから、買ったのだ。ありったけの貯金をはたいて、明王を飼うことを決意したのだ。 源田は、自分の喉に歯を立てる明王を布団に組み敷いた。 幼く小さな体は抵抗することなくされるがままになる。 大きな双眸が真っ直ぐと源田を捕らえていた。 「いいぜ、抱けよ。あんたになら抱かれてもいい」 源田は大きく息を吸い込み、明王の小さな体を強く抱きしめた。 「おい、そういう意味じゃ……」 「明王、俺は源田だ。源田 幸次郎だ。あんたなんてよそよしい言い方はよしてくれ」 くしゃりと笑ってそう言ってやると、明王は困ったように笑った。 「ん、源田」 今にも消えてしまいそうなほど小さな声で、それでも確かに明王の口は源田の名前を呼んだ。そして「抱いてくれ」と、恥ずかしそうに顔を俯かせる。その愛らしい仕草に源田はいてもたってもいられなくなった。 明王の小さな唇に、食らいつくような勢いでキスをする。 薄い唇を割って開き、中を貪るように味わう。 歯列の裏をなぞり、ぬるめく舌を絡めとると、明王の小さな体はひくひくと打ち震える。 「ん、っぁ、は、っぅ」 目を細め、源田の舌を必死に受け入れ応えようとする明王。 そんな明王の尻を優しく撫でながら、なおも深く口付ける源田。 源田の手は、明王の尻尾の付け根をさわさわと弄ぶ。 敏感な尻尾をいいように嬲られ、明王の眦は赤く染まっていた。 ちゅぷちゅぷと音をたて絡み合う舌がゆっくりと離れ、二人の間に透明な糸が伝う。 「っは、ぁ……ン」 キスに浮かされた明王の頬は上気しており、呼吸を吸い込む胸は大きく上下していた。 源田は節くれだった指を明王の口にねじ込んでやる。 人差し指と中指で舌を弄ってやると、明王は唾液をたっぷり絡めた舌をその指に這わせじゅぷじゅぷと美味しそうに舐った。 ちゅぷ、と音をたて指を引き抜くと、名残惜しげに鼻を鳴らす明王。 唾液でしどしどに濡れそぼつ指を、源田はゆっくりと明王の肛門に這わせた。 小さな紅色の蕾は、侵入を拒むように頑なに口を閉ざしている。 ゆっくりと入り口をなぞり、つぷ、と中指をねじ込めば明王の白い内股がピクンと戦慄く。 「ン、ッぁ」 「大丈夫か?」 優しく問えば、明王はこくこくと首を立てに振る。 「ん、へーき。ペットショップにいた頃は、躾けとかなんとかいって毎日、弄られてたから、慣れてる。さすがに一ヶ月ご無沙汰だったから、ちょっときつくなってるかもしんねーけど」 明王の言葉に眉を寄せる源田。 あの、ペットショップの店員が毎日のように明王の体を貪っていたのかと思うと、堪えきれないほどの怒りがふつふつと腹の底から湧き上がってくる。 奥歯を噛み締める源田を見て明王は苦笑する。 「な、早く源田のをくれよ。俺の過去、全部忘れさせて。俺のこと全部、源田のものにしてくれよ」 膝裏を抱え、白い双丘を晒し、明王はねだった。 源田の指を咥え、ひくつく紅色の蕾も余すことなく源田の視界に飛び込んでくる。 源田は中指をねじ込んだ尻穴に舌を這わせた。 頑なに口を閉ざす窄まりに舌をねじ込み、熱い内壁にたっぷりと唾液を注ぎ込む。 中指でぐるりと直腸を嬲ってやれば、明王の口から甘い声が漏れる。 たっぷりと躾けられた明王の体は、後ろで快感を得ることなど容易いことだった。 ずぽずぽと直腸を擦り上げると、明王の幼い性器は嬉しそうに透明な蜜を撒き散らす。 中を慣らすための指を二本、三本と増やしゆっくりと広げてやる。 唾液でしどしどに濡れた肛門は、いやらしくぬらつき、懸命に太い指を咥え込んでいた。 指を引き抜くと、明王の蕾ははくはくと呼吸をするように口を開閉させる。 源田は滾る欲望を明王の蕾にあてがった。 「明王、入れるぞ?」 「んっ、ちょーだい、早くご主人様の入れてぇ」 蕩けた目をした明王は、甘えた声で鳴いた。 勢いよく、腰を押し進めると明王の体はビクンと強張り痙攣する。 狭い直腸が源田の欲を搾り取るように蠕動し、奥へ奥へと誘う。 「っく、ぅ」 源田は目を眇め、腰をゆっくりと揺すった。 ずくずくと中を抉るたび、ビクンビクンと細い体を震わせる明王。 良い所を熱い剛直が掠めるたび、喉を反らせては嬌声を上げる。 「っひ、ぁ、ッァァ、あ、っく、ぅッン」 ピストンのスピードを上げゴリゴリと容赦なく前立腺を叩いてやると、明王の中はたまらないとでも言いたげにきゅうきゅうと源田を締め付けた。 部屋の中に響く、粘膜の擦れあう淫靡な水音と肉のぶつかり合う音。 源田は夢中で明王を貪った。 明王の細い体を揺さぶり、最奥に何度も白濁をぶちまける。 熱を受け止めるたび、明王は嬉しそうに体を震わせて甘い声で鳴く。 源田は明王が気を失っても、なおその体を貪りつくしたのだった。 次の日、目を覚ましたのは昼過ぎだった。 幸い、今日は日曜日。大学は休みである。 自分の腕の中ですやすやと寝息を立てる愛ネコの姿に、胸の中がじんわりと温かくなる。 形の良い額にキスをくれてやると、明王は小さく身じろいだ。 ゆっくりと開かれるアイアンブルーの瞳はいまだ微睡みから抜け切れていない。 それでも、源田の姿をとらえると幸せそうに目を細める。 なんともいえない幸福感が、源田の中に広がっていく。 そして、ぼんやりと明王に似合う首輪を買ってやろうなどと考えた。 END |