■ ダブル 1 ■

※注意 佐久→鬼 源不/皆帝国学園生/源不エロはは単品でも読めるお話となってます


 鬼道に蹴られるボールになりたい。いや、この際ボールでなくてもいい。鬼道を包み込むマントになりたい。ゴーグルになりたい。いっそ鬼道のパンツになりたい。
 ゴールに向けて気のないシュートを放った佐久間の心中は、よこしまな願望で埋め尽くされていた。
 威力のないシュートはゴールを守る源田の手の中にあっさりと吸い込まれていった。
 小さくため息をついた佐久間は、部員に指示を出しながら練習に励んでいる鬼道に視線を送る。
 勿論、鬼道が佐久間の熱い視線に気づくはずもない。
「どうした、佐久間。体調が優れないのか?」
 ゴールから走ってきた源田は心配そうな表情を浮かべ佐久間に問う。
 佐久間は心底嫌そうな顔をして源田を睨んだ。
「うっせぇ、リア充爆発しろ」
「?」
 源田は佐久間の言葉の意味を理解しかね小首を傾げる。
「アッハァ! 源田に八つ当たりかよ、佐久間ァ」
 背後から源田に飛びついた不動が、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべ佐久間を揶揄する。
 佐久間は射抜くような視線で不動を睨めつけるが、不動はそんな視線などどこ吹く風で源田の首筋に自らの顔を埋めた。
「源田ぁ、佐久間ちゃんは自分が独り身でさみしーからってお前に八つ当たりしてるんだぜぇ?」
「そうなのか?」
 眉を八の字にしながらも、不動に密着されてどこか嬉しそうな源田が心配そうに佐久間の顔を覗き込む。
 しかし、その行動は佐久間の苛立ちを増幅させるだけでしかなかった。
 人を呪い殺せるような凄まじい形相を浮かべた佐久間は足元にあったサッカーボールを源田に向けて思いっきり蹴り上げる。
 背後にぴったりと不動がくっついているせいで反応が遅れた源田は、佐久間の放った渾身の一撃を顔面で受け止めるはめになってしまった。
 思いっきり尻餅をついた源田の鼻から一筋の赤い線。
 源田が倒れる前にすばやく身を離した不動は、グラウンドに膝をつき源田の顔を覗き込む。
「おいおい、大丈夫かよ、源田ぁ」
「あ、あぁ、俺は平気だが……不動、お前は大丈夫か」
「ばぁか、俺のことより、てめぇの心配しやがれ。鼻血流して大丈夫もくそもねぇだろォ」
 目の前で繰り広げられる甘ったるいラブシーンに、佐久間は歯軋りをする。
「お前たち、何をやってるんだ」
 愛しい人の声が真後ろから聞こえて即座に振り返る佐久間。
 遠くで他の部員たちに指示を出していたはずの鬼道が背後に立っている。佐久間は思わず背筋を伸ばした。
「き、鬼道っ。いつからそこに」
「あ、きどぉくん」
 鬼道の姿を見て、不動はニヤリと口の端を吊り上げる。
「見ての通り源田が怪我しちまったから、俺は保健室まで付き添いな。で、佐久間クンが鬼道クンにとぉーっても大事な話があるらしいから、しっかり聞いてやりな」
 そう言い放った不動は嬉々とした表情を浮かべ、源田を引きずりグラウンドを後にした。
「そうなのか、佐久間?」
「え、あ、あぁ。あ、いや、そういう訳では……」
「どっちなんだ、はっきりしろ」
 ゴーグル越しに睨まれ、佐久間の視線が泳ぐ。
 鬼道を前にすると思うように言葉を口に出来ない自分が歯がゆい。
 今すぐに、好きだと伝えられたらどれだけ気持ちが楽になるだろうか。
 しかし、鬼道の答えを聞くのが怖い。
 今の関係が壊れてしまうのが怖い。
 想いを告げて一時的に気持ちが楽になったところで、その想いが成就しなかったらきっと想いを告げたことを一生後悔するだろう。
 そう思うと、やはり迂闊に口を開くことは出来なかった。
「いや、本当に何でもないんだ」
 そう言って曖昧な笑みを浮べる佐久間。
 そんな佐久間を見た鬼道の眉間に小さく皺が寄る。
「お前は……お前はいつもそうだな」
 諦めたような表情を浮べた鬼道の口から搾り出すように吐き出された言葉。
「え?」
「いや、なんでもない」
 そう言って踵を返す鬼道は、再び他の部員の指導へと戻っていった。


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