「ん」 ぐったりとベッドの上で仰向けになっている不動が、源田に向かって両腕を差し出す。 源田はそんな不動を正面から優しく抱きしめた。 背中に腕を回し、包み込むように力を込めると不動は満足そうに鼻を鳴らす。 まるで猫のようだと源田は思う。 不動のしなやかな腕が源田の首に巻きついた。 体をぴったりとくっつけると、温もりと鼓動が伝わってくる。 静かな部屋の中に、ただ二人の呼吸の音だけが響く。 情交のあとの、穏やかな時間。 幸せそうに目を細める不動を見ていると、胸の中が温かくなる。 ずっと、こうしていられたら……そんな考えが源田の頭の中を占めていた。 不動が好きだ。愛している。 そんな思いが自分では制御できないくらいに膨れ上がってしまう。 不動の白くしなやかな腕。すらりとした脚。それら全てが自分だけのものだったらいい。 なぜ、不動の両腕は自分以外の人間を抱きしめることができるのだろうか。 なぜ、不動の両足は自分以外の人間のもとに行くことができるのだろうか。 もしも、その四肢を奪い取ったら、不動は自分だけのものになるのだろうか。 行為の最中、源田は常に考える。 自分に不動の四肢を食い千切ることができる牙があったならと。 もしも肉食獣のような鋭い牙があったら、自分はきっと不動の四肢をあますことなく貪るだろう。 四肢を失って自分なしでは生きられなくなった不動をめい一杯甘やかしてどろどろになる程愛してやりたい。 そうすることができたら、どれだけ素晴らしいだろうか。 しかし、そんな願望がかなわないことなどわかりきっている。 理性という枷で狂った願望を抑え込んで、それでもあふれ出てしまった冀求は不動の四肢に歯形を残す。 食い千切ることができないと知りながら、源田はきまって情事の最中、不動の四肢に食らいつくのだ。 白い肩、二の腕、太もも。いたるところに残る歯型。 源田は愛しそうにその痕をなぞる。 そして、癒すように舌を這わせ舐ってやる。まるで、獣のようなその行為に、不動は苦笑した。 「ばぁか、くすぐってぇよ」 源田の髪を掻き回して、不動は言う。 そんな不動の白く細い首筋に吸い付いた後、源田は不動の耳朶を舐る。 「不動、好きだ。愛している。お前だけを。これからもずっと」 不動の耳にキスを落として源田は囁いた。 だから、お前も自分だけを見てくれ。自分だけを愛してくれ。未来永劫ずっと。そんな口にできない願望を密かに乗せた愛の言葉。 それを受け止めた不動は、小さく笑って源田の唇に吸い付いた。 源田の歯列を丁寧になぞった舌が口腔内をあますことなく貪る。 くちゅくちゅと音を立てて舌を絡めれば、飲みきれない唾液が不動の形の良い顎に伝う。 「ん、ぅ……は、ァ……ぁん」 恍惚とした表情で、甘い吐息を漏らす不動。 源田はそんな吐息すら溢すまいと、不動の口をふさぐ。角度を変え何度も、何度も貪りあう。 呼吸すらままならぬ、深い口づけに眼球の奥がちかちかと白く染まるような錯覚。 不動は源田の首に巻きつけた腕に力を込めた。 熱い舌に敏感な口腔内を掻き乱され、腹の奥が熱くなる。 唇を離すと、名残惜しいと言わんばかりに透明の糸が伝った。 頬を上気させ大きく息を吸い込む不動。 源田はそんな不動をうつぶせにさせ、腰を持ち上げる。 熱烈な口づけで鎌首をもたげた昂りを不動の中に埋めたい。そんな欲求が考えるよりも先に行動にでてしまっていた。 「ぁ、ばか、さっき散々やっただろォ」 首を捻り源田を見る不動。そして責めるような目でそう咎める。 しかし、源田はもう止まることができなかった。 白い尻を些か乱暴に掴み、蕾を晒すように押し広げる。 先刻、散々嬲られた蕾は、白濁を溢しながら熟れた柘榴のようにぽってりと赤く腫れあがっていた。 源田は無情にも、そんな蕾に節くれだった指をねじ込んだ。 「や、ァッ……もう、無理だって」 熱く火照る内壁を擦ってやると、引き攣った声を漏らす不動。 人差し指から薬指までをねじ込んだ源田はぐじゅぐじゅと音を立て直腸を嬲る。 散々中に吐き出した欲望の名残が泡立って、蕾のふちからあふれ出す。 「ひ、ァ……や、っく、ぅァアッ」 内股を震わせながら喘ぐ不動。 嫌がるわりに、中は源田の指を奥へ奥へと誘うように蠕動する。 蠢く内壁に早く自らの熱を埋めたい。そんな欲求に駆り立てられ、源田は指を引き抜いた。 口を開いた蕾は、赤い内壁をちらつかせながら源田を誘った。 白濁に潤むその蕾に、源田は自らの昂りを押し付けた。 入り口がヒクヒクと戦慄く。 源田は不動の腰を掴み、一思いに最奥を貫いた。 「ヒ、ァ゛アアア゛ア゛ッ」 目を剥き、背を弓なりにする不動。 源田の剛直を根元まで飲み込んだ不動は、目を白黒させながら体をぴくぴくと震わせた。 「っく……」 熱い直腸に昂りを締め付けられ、吐息を溢す源田。搾り取るようにきゅうきゅうと締め付けられ源田は目を眇めた。 貪欲な内壁は嫌がる不動の意思とは裏腹に、源田の剛直を美味しそうに貪る。 源田の脈を直腸で感じ、不動ははくはくと口を開閉させた。 「ぁ、っぁぁう、ンッ……源田のが、腹んなかでドクドクいってる」 うっとりとした表情で腹を撫でながら、うわ言のように呟く不動。 源田はそんな不動を抱き起こし、背面座位の体位をとった。 「ひ、ぎッ、やぁッァアアアッ」 自らの体重で、さらに深く源田を飲み込んだ不動は嬌声を上げ体を痙攣させた。 源田は腰を小刻みに揺すり、不動の前立腺を集中して責めたてる。 そして、ツンと立ち上がった不動の両乳首を捻りあげた。 些か乱暴な愛撫に、不動の直腸がぎゅっと締る。 強弱をつけて乳首を転がし嬲ってやると、不規則に締る入り口と内壁。 源田は容赦なく不動を揺さぶった。 白い肩に噛みつき痕を残しては優しく舐り、そして不動の良いところを何度も何度も繰り返し抉る。 うつろな目で揺さぶられる不動の肉棒はぴゅくぴゅくと薄い精液を吐き出していた。 不動が気が付くと、そこは源田の部屋ではなかった。 うっすらと蒸気が烟る浴室。 不動は浴槽のふちに上半身を預けた状態だった。 いまだ、尻穴がじんじんと熱く火照っている。 背後にいる源田が、シャワーヘッドを傾け心地よい温度のお湯が不動の尻にかけられた。 そして源田は、いたわるような手つきで不動の肛門に人差し指と中指をねじ込む。 「ぅ、あ……」 無意識のうちに不動の口から漏れる吐息は、シャワーの音にかき消され源田の耳には届かない。 源田は、優しく不動の直腸から己の迸りを掻きだした。 ドロリとした白濁がシャワーのお湯に流され排水溝に消えていく。 行為のあと、源田は決まって不動の体を清める。 不動が自分で動ける時ですら、一緒に風呂に入っては必ず後始末をするのだった。 髪の毛一本一本から、足の指の爪まで丁寧に丁寧に不動を清める源田。 優しい手つきから滲み出る愛が心地よい。 散々嬲られ重い体を叱咤して、不動は源田の方へ体を向きなおす。 そして、徐に両腕を差し出した。 幸せそうに微笑んだ源田は、正面から不動を抱き上げ、そのまま浴槽に入る。 二人分の体積を受け止め、あふれ出るお湯。 源田に跨るような体勢で、体を預ける不動。 源田の逞しい胸板に頭を擦り付け不動は目を細めた。 行為の最中、源田は決まって不動の腕や足に噛みつく。 そして終わった後、不動の体を清めながら愛しそうに歯形を撫でるのだ。 不動はその行為が何を意味するのか、薄々勘付いていた。 源田はきっと不動の両腕と両足を奪い取ってしまいたいのだと。 そして、四肢を失ってどこにも行けなくなった不動を体を清めるときのように丁寧に愛したいのだと。 深く深く愛されていることが心地よい。 源田にならこの四肢を差し出してもいいとさえ思っている。 それでも、不動は源田が欲している言葉を口にすることはない。 不動は源田の首に腕を回し掻き抱いた。 腕がなくなってしまえば愛しい人を抱きしめることすら叶わない。 足がなくなってしまえば愛しい人の元へ行くことすら叶わない。 源田を求めることができなくなるのは嫌だった。 不動は苦笑して源田の双眸を覗き込む。 そして、啄むようなキスをした。 END |