「鬼道クンのバカ」 呟いた声が誰もいないリビングに空しく響く。 不動はワインをグラスに注ぎ、一気にあおった。 「寂しくなったら、これを俺だと思って使ってくれ」 しばらく海外に出張することになった鬼道は、そう言って大人の玩具を不動に手渡した。 「少しやっかいな出張でな……、いつ帰れるかわからないんだ。だから寂しい夜はこいつで……」 不動は鬼道が最後まで言い切る前に、それを鬼道の顔面に投げつけてやった。 「鬼道クンが一週間や二週間いなくたって寂しくないっつーの。むしろ鬼道クンの方が寂しくて夜に困っちゃうんじゃねぇの」 「なっ、俺だって寂しくなんか……!」 「ハッ、どーだかねェ。こんなしょうもない棒買うくらいなら、オナホでも買った方がよかったんじゃねぇ?」 「貴様ぁ!」 売り言葉に買い言葉。 結局そのまま鬼道は海外に出張してしまい、うやむやとしたわだかまりだけが残ってしまったのだった。 そして、鬼道が海外に行って一週間。一度も連絡がくることはなかった。 頑なな性格が災いして、自分から鬼道に電話をかけることすらできず、寂しさを紛らわすように酒をあおる。 たかが一週間。 以前の自分なら、一週間や二週間一人でいたところでこんなにも寂しい気持ちになることはなかっただろう。 随分と感化されたものだと苦笑する。 鬼道に会いたい。鬼道の声が聞きたい。そんな欲求ばかりが膨らんで息ができないほどに苦しくなった。 寂しさを紛らわすために摂取したアルコールが脳内を侵食し人肌を求める。 それでも今一番に触れて欲しい人は、どれだけあがいても手の届かないところにいた。 不動は火照る体を慰めるように自らの胸元に手を這わす。 鬼道がプレゼントしてくれたリングピアスをなぞり、瞳を閉じる。 自らの手を鬼道のそれに置き換えて、ツンと立ち上がるそれをぐりぐりと捏ねまわし、ピアスをぐっと引っ張った。 むず痒いような何とも言えない感覚。 「ん、ぁっ……」 口から漏れる甘い吐息。 下半身に血液が集中するのが、いやでもわかった。 不動はふらつく足取りで寝室に向かった。 どさりと、ベッドに倒れ込み天井を仰ぐ。 いつもなら、鬼道と二人で眠るキングサイズのベッド。 一人で眠るには広すぎて、どうしようもない不安が胸の中に広がる。 枕に顔をうずめたところで、鬼道の臭いすらしない。 一週間はあまりにも長すぎた。 徐にベッドサイドのチェストをあけると、あの日鬼道が不動に手渡した玩具がしまわれていた。 おずおずとそれを手に取る不動。 目に痛いショッキングピンクの玩具。 男根を模した卑猥な造形のそれを見て、ごくりと喉を鳴らす。 不動は目を閉じてそれに舌を這わせた。 美味くもない無機質なそれを鬼道のものだと思って喉の奥まで咥え込む。 そしてたっぷりと唾液を絡め吸い付く。 口を窄め頭を揺らしじゅぽじゅぽと吸引したところで、最初から硬いそれが質量を増すことはない。 それでも、鬼道のものだと思い舌を這わせているうちに不動の体は熱くなっていく。 熱い吐息を漏らしながら、気が付くと手が自らの尻穴をなぞっていた。 「はぁ、っぅ……きどぉ、くん」 声に出して最愛の人の名を呟くと、ますます胸が苦しくなる。 会いたい、会いたい、会いたい。ただそれだけが、不動の思考を支配していく。 チェストからローションを取り出し、指に絡める。 不動は冷たいままのそれを、固く閉ざされた蕾に塗りたくった。 無機質な玩具を喉の奥まで咥えながら、一本二本と自らの中に指をうずめていく。 ぐちゅぐちゅと淫らな音を漏らしながら、浅ましい肉穴は指を飲み込んでいった。 中を拡げるように、指を開き内壁を嬲る。 自分の指では思うようにいいところに届かなくて、もどかしさに身を捩る不動。 この玩具なら、欲しいところを抉ってくれるのだろうか。 そんなことを思いながら、玩具から口を離す。 唾液で濡れそぼつ玩具。 不動はおずおずと自らの肛門にそれをあてがった。 そして、ゆっくりと中に押し込む。 尻穴を押し開き中に侵入してくる玩具。 不動は喉をのけぞらし、快感に耐える。 太い玩具は直腸をぎちぎちに押し広げ、不動を苛む。 ずっぽりと玩具を奥までねじ込んだ不動はひくひくと内股を震わせた。 そして取っ手についているスイッチをオンにする。 「ヒ、ァ……っく、ぅァァァアアアアッ」 ヴヴヴと、振動する玩具に不動は目を剥いた。 人間のそれには決してできない動きで不動のいいところをすりあげる玩具。 小刻みな振動に、不動はただただ体を震わせることしかできなかった。 「やぁ、っく……きど、ぉくん、きどぉっくん」 愛しい人の名を口ずさみながら、玩具を出し入れする。 ずちゅずちゅと、淫らな音が室内に響く。 その時、ベッドサイドに置いていた携帯が震えだした。 響くお気に入りの着信音。 そのメロディは鬼道からの着信の時にのみ鳴るよう設定してあるものだった。 不動は出るか出ないか思案する。 こんな状況でまともに話ができるだろうか。そんな不安と、鬼道の声が聞きたいという欲求。板挟みの葛藤。 それでも不動は携帯を手に取り、電話に出る決心をした。 「もしもし、きどぉくん?」 「あぁ、俺だ」 一週間ぶりに聞く鬼道の声。 その声を聞くだけで体の奥がジンジンと熱くなる。 不動は携帯を耳に押し当て、瞳を閉じた。 「なかなか連絡ができなくて悪かった」 「ほんとだよ、バカ」 お前の声が聞きたかった、などということを素直に口にできるほど不動は器用じゃない。 それでも、鬼道ならきっとわかってくれると思い、つい憎まれ口をたたいてしまう。 本当はずっと声が聞きたかった。 今だって、鬼道に会いたくてしょうがない。 できることなら、この玩具を引き抜いて鬼道のものに貫かれたい。 そんな考えばかりが頭を占めている。 「元気にしているか?」 「ハッ、あたりまえだろォ。そういう、きどぉくんはどうなんだよ」 ぐちゅ、と玩具を出し入れしながら不動は問う。 どうせ当分鬼道に会えないのなら、せめて鬼道の声を聞きながら達したい。 そう思い不動は、いいところに当たるよう玩具をピストンする。 「あぁ、俺も元気にしている」 「ぁ、っぅ……」 「不動?」 思わす漏れた吐息に、怪訝な声を上げる鬼道。 「っく、なんでもねぇよ」 「そうか?」 ぐぽぐぽと音を鳴らして出入りする玩具。 勢いを増すピストンに捲れ上がる肛門。 「なんでもないようには見えんがな」 ガチャリと開かれる寝室のドア。 思わず目をやると、会いたくて会いたくてしょうがなかった最愛の人が立っている。 不動は携帯を落とし、鬼道を凝視した。 「きど、ぉ……くん?」 「随分といい光景だな」 ゆっくりと足を進める鬼道。 ベッドの上で乱れる不動の顎を掴み、優しく口づける。 一週間ぶりの口づけは長く甘いものだった。 舌を絡ませ、存分に不動の口腔内を弄る鬼道の舌。 片手は器用にも、不動の左乳首のピアスを引っ張りあげる。 「ンっく、ァ……は、ぅ」 甘い口づけと乳首からの刺激に、不動は眉を寄せ体を震わせた。 舌を離すと名残惜しげに透明の糸が伝う。 「寂しくないんじゃなかったか?」 口の端を釣り上げて言い放つ鬼道。 赤い瞳は至極楽しげだった。 普段の不動なら何か言い返したかもしれないが、アルコールに侵食され寂しさが限界に達していた不動は何も言わず鬼道の胸に頭を預けた。 そして、胸いっぱいに鬼道の臭いを吸い込む。 「きどぉくんの臭い……」 瞳を閉じて幸せそうにそんなことを言われると、鬼道も何も言えなくなってしまう。 鬼道は柔らかな不動の髪に指を絡め優しく梳いてやった。 「明王、会いたかった」 「ん、俺も……」 ぎゅっと抱きしめあい、互いの体温を確認する。 一週間前の喧嘩など嘘のような、深い深い抱擁。 「ね、きどぉくんの……ちょうだい? こんなのじゃ、きどぉくんの代わりなんてつとまんねぇし」 ぬぢゅ、と音を立てて引き抜かれる玩具。 満たしていたものがなくなった、肉穴は物欲しそうにひくつく。 鬼道が挿れやすいように四つん這いになった不動は、自らの指で肛門を押し開き、鬼道のペニスをねだった。 鬼道は早急にスラックスのジッパーを下し、熱く滾るそれを不動の蕾にあてがった。 そして細い腰をしっかりと掴み、勢いよく刺しぬく。 脈打つ肉棒は直腸を嬲り内臓を揺さぶる勢いで前立腺を抉った。 無機質な玩具とは違う、熱い楔。 鬼道のものに貫かれる喜びを全身で感じ、不動はびくびくと体を震わせた。 「ぁ、ァっくぅ……ん、きどぉっくん」 「不動っ……」 一週間ぶりの不動の体。 きゅうきゅうと懸命に絡み付く内壁に気を良くした鬼道は、小刻みに腰を揺らし前立腺を狙って攻める。 いいところばかり責められて、不動は嬌声を上げながらびゅくびゅくと白濁を吐き出した。 射精とともに、内壁がこれ以上ないほどに締り、たまらず鬼道も熱を放つ。 そして繋がったまま背後から不動の細い体を抱きしめてやった。 「お前に早く会いたくてな……連絡する時間も惜しんで死に物狂いで仕事をした」 何気なく囁かれる鬼道の言葉に不動は目を細める。 「俺も、きどぉくんに会いたくて会いたくてどうにかなりそうだった」 素直な言葉が自然と不動の口からこぼれ落ちる。 二人は顔を見合わせて苦笑した。 そして、一週間の隙間を埋めるように深く深く愛し合うのだった。 END |