不動の耳には、所狭しといくつものピアスがひしめいている。 いずれも恋人である鬼道からプレゼントされたものだった。 毎年一つ。二人が付き合い始めた記念日に、鬼道は不動にピアスをプレゼントしてはその耳に新しい穴を開ける。 つまり、不動の耳を飾るピアスの数が、そのまま二人で過ごした年月を現していた。 不動は鏡に映る自分の耳を見て苦笑する。 両耳いっぱいに施されたピアス。こんなにも長い間、鬼道とともに過ごすなんて思いもしなかった。 鬼道には約束された将来がある。だから、未来の鬼道の隣に自分がいることはないと思っていた。 自分がいることで、鬼道のプラスになることなど一つもないのだから。 鬼道の足枷にはなりたくない。 鬼道の重荷になるくらいなら別れた方がいい。そう決心し、何度も鬼道と衝突した。 「もう一緒にはいられない」そう告げるたび、鬼道は必死に不動を引き留めた。 本当に一緒にいられないと思っているのなら、何も言わず鬼道の前から姿を消せばよかったのだ。 結局、心のどこかで鬼道が引き留めてくれることを望んでいたのだ。 鬼道が引き留めてくれることを免罪符にして、ずるずると鬼道と付き合い続けていたのは自分の甘え。 どんな言い訳をしたところで、とどのつまりは鬼道の重荷になりたくない思いよりも、鬼道のそばにいたいという思いが勝っていたのだ。 「バカだよなァ」 誰に言うでもなく呟いた言葉。 不動は自分の耳をなぞり、ぼんやりと天井を仰いだ。 「不動、何をしているんだ」 リビングにいたはずの鬼道がすぐ後ろに立っていて、不動はビクリとする。 「あれ、鬼道クン。何、どしたの」 「お前がトイレに立ったきり戻らないから、心配になってな」 鬼道は苦笑しながらそう言った。 そして、不動を後ろから包み込むように抱きしめる。 「そういえば、不動。今日は何の日か知っているか」 不動の耳元で囁いて、柔らかな耳朶を甘噛みする鬼道。 不動はくすぐったさに身を捩りながら、鬼道を見る。 「知ってる。今日もくれるんだろォ? ピアスをさぁ」 「あぁ、今年は特別なのを用意した」 赤い双眸を細め、鬼道は言う。 不動はそんな鬼道の唇に触れるだけのキスをした。 寝室のベッドの上、上着を脱がされた不動は小首を傾げ鬼道を見上げる。 「なぁ、ピアス穴あけるんじゃねぇの」 ピアス穴をあけるのに上着を脱ぐ必要などないだろう。そう疑問に思っていると、鬼道の手が不動の耳に触れる。 ごつごつとしたピアスを撫でながら笑みを浮かべる鬼道。 「もう、耳にはあける場所などないだろう」 もっともな答えだが、ならばどこに穴をあけるというのだろうと不動は頭を捻った。 鬼道の指がつぅ、と不動の喉をなでゆっくりと下に降りる。 そして、外気に晒されツンと立ち上がる薄桃色の乳首をつまんだ。 「ぁ、っちょ……なんだよ」 敏感な部分をクリクリと捏ねまわされ、不動は眉を寄せる。 「今日はここにピアス穴をあけてやろうと思ってな」 そう言って鬼道はニヤリと笑う。 思いもしない場所に穴をあけると宣言され、不動は青くなった。 鬼道の手から逃れようと、ベッドの上で後ずさる。 しかし、腕をひかれ鬼道の胸に顔をうずめる羽目になってしまった。 「大丈夫だ。慣れれば案外気持ちいいかもしれんぞ」 至極楽しそうな鬼道。 ならばいっそ自分の乳首に穴でもあければいいだろ、と言ってやりたかったがギュッと乳首を抓られてしまい口から漏れるのは情けない喘ぎ声だけだった。 散々甚振られ、真っ赤に腫れた乳首に舌を這わせる鬼道。 立ちあがたそこを甘噛みされ、不動はびくりと体を震わせる。 「きどぉ、くん……もぉ、やだぁ」 乳首しか触れてこない鬼道に焦れて、もどかしそうに膝をすり合わせる。 しかし鬼道は不動のジーンズを脱がしてやりもせず、チェストから消毒液とニードルを取り出した。 「先に穴をあけなくてはな」 口の端を釣り上げて、鬼道は言い放つ。 そして、不動のぽってりと腫れあがった左乳首に消毒液を垂らした。 冷たい感触に身震いをする不動など気にも留めず、滅菌パックを破りニードルを取り出す。 「ね、ホントにあける気かよ」 瞳に脅えの色を滲ませて、不動は問う。 「なにを今更」 鬼道はクスリと笑って、ニードルに軟膏をつけ不動の乳首に鋭利な切っ先を押し付けた。 そして、反対側にコルクをあてがう。 すっかり穴をあける準備が整ってしまい、不動は苦い表情で自分の乳首を見つめた。 「愛しているぞ、不動。今までも、これからも、ずっとだ」 そう言って一思いに突き刺されるニードル。 「ヒ、ぃ゛……ァァアアアア゛ア゛ッ」 細胞を破壊して貫通するニードル。全身を駆け巡る激痛に不動は目を剥き悲鳴をあげた。 生暖かい液体が、不動のジーンズを濡らす。 金魚のように口をはくはくとさせながら、不動は失禁していた。 鬼道は気にせず、バーベル状のファーストピアスをニードルの後ろにあてがいゆっくりと押し込む。 不動の乳首にピアスがしっかりと装着されたことを確認してから、不動を抱きしめてやった。 そして何事もなかったかのように小水で濡れたジーンズを脱がせてやる。 パンツを下してやると、ねっとりとした白濁が糸をひいた。 それを見て、鬼道は口の端を釣り上げる。 「なんだ、不動。穴をあけられてお漏らししながらイったのか?」 鬼道が揶揄すると、不動は眦を赤く染めながら鬼道を睨みつけた。 「うっせぇ、鬼道クンのバカ」 「しかし、ピアスホールが定着するまで左乳首を可愛がってやれないのは残念だな」 そう言いながら、不動の右乳首を舐る鬼道。 不動は嫌そうに身を捩るが、結局は好きにさせてやるのだった。 それから数か月してピアスホールが定着した不動の乳首には、プラチナのリングピアスが施されていた。 特注のリングピアスに刻まれているのは、鬼道のフルネーム。 まるでエンゲージリングのようなそれを見せられた時、不動はなんとも言えない気持ちになったのだった。 END |