「あいつ、ホントどこに行っちまったのやら……」 薄暗い照明のジャズバーのカウンター。鬼道の隣に座っている佐久間は、そう呟きながらグラスのウィスキーを一気にあおる。 佐久間の言う「あいつ」、とは不動のことだ。 不動とは中学校のころからの腐れ縁で、結局大学まで行動を共にしていた。 そして、そんな不動が消息を絶ったのはつい最近の出来事だった。 大学卒業も間近に控えた二月の初め、彼は何を言い残すでもなく忽然と姿を消してしまったのだ。 そんな不動の失踪に最も驚いたのが、恋人である源田だった。 大学を卒業したら一緒に暮らす約束までしていたらしい。 それなのに不動ときたら、恋人の源田にすら何も言わずいなくなってしまった。 源田は死に物狂いで不動の行方を追っている。 大学在学中……それこそ不動が失踪する前は飲みに行くでもなんでも行動するときは大体、源田、不動そして鬼道に佐久間の四人だった。 しかし、不動がいなくなってしまってからというもの、源田はめっきり付き合いが悪くなってしまった。 「まったく、しょうもない奴ですよね」 そう言って、佐久間は鬼道の横顔を見る。 先ほどから何も言わずにグラスを傾けている鬼道の頬を走る赤い線。 佐久間は顔を合わせた時から気になっていたその傷を言及してみる。 「そう言えば鬼道、その顔どうしたんだ」 「ん、あぁ」 鬼道はグラスをテーブルに置き苦笑した。 「猫にひっかかれてな」 「猫……?」 「あぁ、最近飼いはじめた。これがまたやんちゃな奴でな……」 先刻まで口をつぐんでいた鬼道が楽しそうに、飼い猫の話を始める。 よほどその猫に執心しているのだろう、鬼道の話ぶりは随分とはずんでいた。 「はは、鬼道は随分その猫のことが気に入ってるらしいな。今度、俺にも見せてくれよ」 「あぁ、機会があったらな」 そんな他愛もない話をして、その日の飲みはお開きとなった。 その後、佐久間は町で偶然、源田と出くわした。 「よぉ、源田じゃないか。相変わらず不動のことを探してるのか」 「あぁ……」 久しぶりにあった源田は以前より少しやつれていた。 力なく頷く源田。その様子を見るからに、不動捜索に進展はないようだ。 「探偵を雇っても、手がかり一つつかめやしない……。不動の身に何かあったら、俺はっ……」 今にも叫びだしそうなほど悲痛な表情を浮かべ、唇を噛む源田。 そんな姿を見ては「あいつのことだから、きっとどっかで元気にしてるよ」などと無責任な言葉をかけることはできなかった。 「そう言えば、一つ気になることがあってな」 そう言って、源田は瞳の色を深くする。 「なんだよ」 「不動が失踪する前、頻繁に不動の家の近くを鬼道が出入りしていたらしい」 「はっ、なんだそれ? 不動の失踪に鬼道がかかわってるとでも言いたいのかよ」 「いや……そういうわけでは」 源田は申し訳なさそうに、首を傾ける。 そして自分で自分を納得させるように「そうだよな」「そんなわけあるはずがない」などと口ずさむ。 どこかうつろな目をしている源田。よほど疲れているのだろう。 佐久間は源田の肩を叩いてやった。 「不動が帰ってきたとき、お前がそんなじゃ、あいつびっくりするぜ。あんまり無茶しないで、ちゃんと休めよ」 そう言って笑ってやる。源田は力なく頷いて「そうだな」と答えた。 それからしばらくして、佐久間はいつものバーで鬼道と飲んでいた。 相変わらずどこか楽しそうな表情の鬼道。 しかし、その手首には包帯が巻かれていた。 「どうしたんだ、それ」 その手首を見ながら、佐久間は何気なく問う。 「ん、あぁ。猫に噛まれてな」 「あぁ、例のネコちゃんか」 「まったく、手のかかるやつでな」 はにかみながらそういう鬼道は、本当に幸せそうだった。 佐久間は鬼道の幸せそうな顔を見るのが好きだった。 そう、佐久間は中学校のころからずっと、鬼道に淡い思いを寄せていたのだ。 叶わなくたっていい、そばにいられれば。 そう思い、ともに過ごし、もう何年になるだろう。 FFIのころ、鬼道が不動に想いを寄せていることにだって誰よりも早く気づいていた。 鬼道はずっと、不動を見つめ続けていた。 だから、不動が失踪したときだって、一番にショックを受けてるのではないかと不安に思うほどだった。 しかし、不動がいなくなった後の鬼道はさほど驚くでもなく、ただ表情をなくした顔で源田を憐れむだけだった。 そんな姿を見て、もしかしたら自分に転がり込んできてくれるのではないだろうかと淡い期待を抱いていたのもまた事実だった。 そう、佐久間は少なかれ不動の失踪を喜んでいた。 しかし佐久間が思うように、ことは運ばなかった。 鬼道は不動がいなくなった隙間を飼い猫で埋めてしまったらしい。 少し残念に思う反面、こんな幸せそうな鬼道を見れるなら良いかもしれないなどと思う自分がいた。 ゆっくりと、距離を縮めればいい。そして、いつか鬼道の心をつかめたなら……そんなことを考え甘ったるいカルーアを飲み干した。 「なぁ、佐久間。この間、俺の猫を見たいと言っていたよな」 「あぁ」 「どうだ、今日この後うちに見に来ないか」 赤い切れ長の目を細め、鬼道は言う。 ぞくりとするほど蠱惑的な表情。 佐久間は頭で考えるよりも先に頷いていた。 「いいのか」 「あぁ、もちろんだ」 くすくすと笑いながら残りの酒をあおる鬼道。 佐久間は弾む気持ちを抑えられずにいた。 飲んだ後、鬼道の家に行く。それはつまり、二人の関係が次のステップに進むかもしれないということだ。 最初から、鬼道は佐久間を誘うための口実に猫を使ったのかもしれない。そんな都合のいい考えが佐久間の頭をよぎる。 どこか夢見心地な足取りで、佐久間は鬼道の家に向かった。 鬼道の家、といっても、大学在学中から鬼道はマンションで一人暮らしをしている。それは卒業後もかわらない。 佐久間も何度か訪れたことがあるそのマンションに、誘われるがまま足を踏み入れた。 扉を開け、鬼道の足はそのまま寝室へとむかう。 あぁ、なんということだろう。ついにこの日が来てしまった。 佐久間は喜びのあまり、ピンクで埋め尽くされた思考を叱咤して鬼道のあとに続いた。 カチャリ、と音を立てて開かれる寝室のドア。 薄暗い寝室には、鬼道のベッド。 そして、そのベッドの上には一糸まとわぬ姿で拘束されている不動の姿があった。 「……っ!」 佐久間は自分の目を疑った。 ベッドに括り付けられているのは数か月前に失踪したはずの不動その人だった。 目隠しをされ、口にはボールギャグを噛ませられている。手首と足首を拘束する枷はベッドヘッドに括り付けられており、足をV字に広げた、なんとも苦しそうな体勢にされていた。 露わにされた恥部には、ずっぽりと玩具がねじ込まれており低いモーター音が室内に響いていた。 「どうだ、可愛い猫だろう」 薄笑いを浮かべ、鬼道は不動の白い尻を撫でる。 「むっ、っぐ……んぅ」 不動の口からくぐもった音が漏れた。 言葉を失い、立ち尽くす佐久間をよそに、鬼道は不動の尻穴にねじ込まれた玩具に手をかける。 そしてその取っ手を掴み、ずるりとそれを引き抜く。 絡み付いた肉色の直腸がほんの少しだけ外気に晒される。 玩具のカリ首だけ不動の中に残し鬼道は手を止めた。 幹部分にはごつごつとしたイボが連なっており、それがつい先刻まで不動の中を蹂躙していたのだ。 鬼道はくすくすと笑いながら、それを勢いよく不動の中に押し込む。 「っぎ、ぅ……っぐ」 ビクンビクンと体を痙攣させる不動。悲鳴はボールギャグに飲み込まれ、くぐもった音にしかならなかった。 鬼道は無遠慮に玩具を出し入れする。 ぎりぎりまで引き抜いては、最奥を抉るように押し込む。 振動とピストンに苛まれ、不動は死にかけの魚のようにぴくぴくと体を震わすことしかできなかった。 ぐぽぐぽと玩具を出し入れする度に粘膜の擦れる淫らな水音が響く。 佐久間は立ちすくみ動けなくなっていた。 「お前も撫でてみるか?」 鬼道の言葉に答えることができない。 喉が変に乾いて、ひりついていた。 佐久間の返答など最初から期待していなかったのか、鬼道は気にせず手を動かす。 ずちゅっと音を立て玩具を引き抜くと、それをベッドの上に放り投げた。 何時間玩具に蹂躙され続けていたのだろうか、不動の肛門は閉じきらずはくはくと呼吸をするように開閉する。 赤く熟れた肉穴はぽってりと腫れ、捲れ上がっていた。 鬼道はそんな肉穴を愛しそうに撫でキスを落とす。 そして、指と舌をねじ込んだ。 熱く絡みつく粘膜を丹念に舐ると、不動の内またはひくひくと痙攣する。 鬼道は唾液を流し込みながら、中を嬲る指を二本三本と増やしていく。 潤む肉穴は健気にも、鬼道の指を受け入れる。 直腸を撫でるように擦りあげ、さらに指を増やす。 人差し指から小指まで、ずっぽりと飲み込んだ肛門は皺が伸びきって無残な姿となっている。 しかし、鬼道は嬲るのをやめない。 「不動、今指が何本入っているかわかるか? くくっ、わかっていても答えられないだろうがな」 笑いながら、鬼道は言い放つ。 「っむ、っぐ……ぅっく」 不動は首を横に振り、必死にやめてくれと頼むが、それが言葉になることはない。 そうこうしてるうちに、鬼道の親指が徐に不動の肛門をなぞる。 「今日はいい子にお留守番してたから、ご褒美をやらなくてはな」 そう言って、鬼道はぎちぎちに押し広げられた尻穴に親指をねじ込んだ。 「ァ、ガッ、っぎぃ、っぐぅううっぐ」 ぐりぐりと強引に押し進められていく拳。 不動の体がビクンビクンと強張り、ペニスから黄色い放物線が描かれる。 じょぼじょぼと湯気を立て、ベッドを汚す小水。 特有の臭いが佐久間の鼻にも届く。 「こら、不動。ダメじゃないか。トイレの躾はこの間したばかりなのにな。しょうがない奴だ」 愉悦の表情を浮かべ、鬼道は不動の腹の中で手を握った。 そして、ズンと中を抉るようにピストンを加える。 ピストンに合わせびゅくびゅくと、黄色い残滓が半勃ちのペニスからあふれ出す。 佐久間は見ていられなくなり、床に目を落とした。 そのあとのことはあまり覚えていなかった。 どうやって家に帰ったのか、あのあと不動がどうなったのか……。 もしかしたら、悪い夢を見ていたのかもしれない。 佐久間はそう思うことにした。 チリン、と鈴の音がなる。 それは不動の白い首元を飾る真っ赤な首輪に施された鈴の音だった。 鬼道は優しく不動の喉を撫でてやる。 不動は何も言わずされるがままになっていた。 否、正しくは「何も言えない」である。口には相変わらずボールギャグが噛まされているからだ。 どれだけ調教しても、不動は鬼道に歯向い続けた。それはいつまでたっても変わることはなかった。 体は従順に手なずけることができても、その口だけは自由にすることはできなかった。 眉を寄せ、憂いげな瞳で宙を見る不動。 鬼道はそんな不動の、ぽってりとした乳首に噛みついた。 ビクンと震える細い肢体。涼やかな鈴の音が鳴り響く。 肌触りの良い尻を撫で、その谷間の肉穴に指を滑り込ませると不動は逃げるように体を捩る。 鬼道は、構わず指をねじ込んだ。 散々甚振られ続けてきたそこは、大した抵抗もなく鬼道の指を飲み込んでいく。 「ほら、ミルクを飲ませてやろう」 口の端を釣り上げ、空いた手でジーンズのジッパーを下げる鬼道。 自らのペニスを取りだし、不動のそこにあてがった。 すると不動は、自ら腰を落とし鬼道のそれを咥え込む。 「んっく……ぅ」 喉をそらし、鬼道の昂りを全て受け入れた。 そして、進んで腰を揺らし快楽を貪る。 ぱちゅぱちゅと結合部から卑猥な水音が鳴り響く。 恍惚とした表情で、鬼道の首にすがりつく不動。 熱く熟れた肉穴は、鬼道の昂りを離すまいと蠢き奥へ奥へと食らいつく。 鬼道は熱い息を漏らしながら、不動の中へ白濁を放った。 「不動っ」 びくびくと体を震わせ達する不動の体を鬼道は強く抱きしめる。 「不動、不動、不動……」 壊れたように自分の名前を呼び、力なく崩れ落ちる鬼道の姿を見て不動は眉を寄せる。 「ずっと、お前が好きだったんだ。どうして……どうして俺じゃないんだ」 この部屋に監禁されてから、何度となくぶつけられた言葉。 その言葉に対する、正しい答えを不動はいまだ見つけられずにいた。 END |