波の行く末A(音綱←立)
2011/02/26 00:08

音綱←立
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 燦々と照りつける太陽の下。
 午前中の練習を終え、待ちに待った昼食の時間。
 綱海は汗まみれの体をどうにかしたくて、水のみ場に向かった。
 本来なら、水を飲むための蛇口の下に顔を乗り出して頭から水を被る。
 冷たい水が火照った体を冷やしてくれる感触が心地よい。
 暫くその冷たさを堪能し、水を止めて思いっきり首を振る。
 そして瞼を拭い目を開くと、いつからそこに居たのか、どこか楽しげな表情の立向居と目があった。
「綱海さん、よかったらこれ……」
 そう言って差し出される青いスポーツタオル。
「サンキュ」
 綱海は笑ってそのタオルを受け取った。
 そしてそのタオルに顔を埋めると、優しいお日様の香りが鼻腔を擽る。
 綱海はこの匂いが好きだった。
 立向居のユニフォームやジャージからする柔らかな匂いと同じもの。
 どこか安心させてくれるその匂いに、目を細め立向居を見やる。
 立向居もどこか嬉しそうな表情を浮かべ綱海を見ていた。
 交差する視線。
 ほんの少しだけ熱を孕んだ立向居の視線に居心地の悪さを感じ綱海は目をそらした。
「タオル、洗って返すな」
「あ、いえ……そのままで結構です」
 そう言って立向居は綱海の手からタオルを受け取った。
「ふふ、まだ濡れてますよ」
 そう言って立向居は受け取ったタオルで綱海の柔らかな髪を拭いてやる。
 優しいその手つきに、綱海はされるがままになってしまう。
 心地よさにうっすらと目を細めると、立向居の大きな手が綱海の頬を撫でる。
 意図を読みかねて首をかしげると立向居は困ったような笑みを浮かべた。
「俺、綱海さんのことが好きなんです」
 突然の告白に、綱海は一瞬何が起きたのか理解できなかった。
 一呼吸置いて、立向居の真摯な瞳を見つめる。
 真っ直ぐ捕らえられた綱海は、上手く回らない頭で懸命に言葉の意味を咀嚼した。
 好き、というたった二文字の言葉が難解な異国の言葉のように思える。
 それは、立向居の言う「好き」がチームメイト、もしくは友人に向ける友愛の意味でないということを肌で感じていたからだ。
 では、立向居の言う「好き」がどんな意味を孕むというのだろう。
 頭のすみではそれを理解していながら、常識がそれを否定する。
 故に綱海は、逃げるような答えを出したのだ。
「俺も好きだぜ、お前のこと!」
 そう言ってやると、立向居は困ったように眉を寄せて首を横に振った。
 頭の中で痛いくらいに鳴り響く警笛。
 駄目だ。
 これ以上は駄目だ。
 何が駄目なのかはわからないが、綱海の本能が立向居の次の言葉は危険だと悲鳴を上げる。
 しかし、当に覚悟を決めている立向居が綱海を逃がしてくれるはずもない。
 次の言葉が無情にも綱海の心臓を突き刺した。

 その後のことはあまり覚えていない。
 はぐらかすことも受けとめることも出来ず、ただ立ちすくむ綱海に立向居は切なげに微笑んだ。
「あの、気にしないで下さい。ただ、俺の気持ちを綱海さんに知っておいて欲しかっただけなんです。困らせてしまって、すいません!」
 そう言って立向居は無理矢理笑顔をつくり、頭を下げた。
 そして逃げるように水のみ場から走り去っていった。
 懸命で健気な後輩が残した苦しそうな笑顔が綱海の胸を苛む。
 それでもその時の綱海の脳裏に真っ先に浮かんだのはなぜか、遠く離れた沖縄にいる音村の顔だった。

続く〜
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