\自由に生きてる/



【 及川徹がバレーを辞めた話】

小学生の頃から始めたバレーボール。初めてサーブを打とうとしたら失敗して、幼馴染みの岩泉に大声で笑われた事を今でも覚えている。中学生になってからの上達ぶりは郡を抜いていて、それでも超えられない壁があって悔しかったことも、もっともっと上へ高い舞台へ行こうと頑張ったことも、その背後から“天才”が現れたこともーーー今はもう、ただの思い出だ。


コートに立つ、ネットの向こう側にいる相手を見る。そこにはもう、俺を射抜くように見ていた鋭い目つきの“天才”の姿は無かった。






という冒頭から始まる及川さんがバレーを辞めたというとんでも設定な話でございます。絵では青城のジャージ着せたりしてて高校生の設定っぽくしてますが、及川さんも飛雄も社会人で実業団に入ってる設定です。(ただの絵柄の問題です)
岩ちゃんは普通のリーマン、日向牛若も実業団にいたり(ここら辺の設定アバウトそもそも牛若の世界ユースもよくわからん←)

それなりに仲良くして、戦ってを繰り返したりしてきた及川さんと飛雄だったのですが、ある日それは突然訪れました。



「ーーーーは?」

何を言われたのか理解出来なかった。ただ、監督の表情は固く険しいまま淡々と話が続く。
その話の半分以上も俺の耳には届いていなかった。ゆっくりと周りを見る。いつも騒がしい日向でさえ言葉を失い、眼を見開いて立ちすくんでいる。嘘だ、とポツリ呟いた言葉を聞き逃さなかった俺は、もう一度周りを見渡す。
どこまでもバレー馬鹿で、ここにいないはずがない男を探す。だが、その黒はどうしても見あたらない。そんなはずないのに、そんな事、あるわけないのに。
ーーー嘘だ!今度ははっきりと、ここにいる全員にもわかるくらいの日向の大声が響いた。

「そんなの、信じたくありません!だってあいつ、昨日までここにいたのに!なのに、なんで...」

日向の声がまた小さくなる。泣いているのだろうか。あのいつも元気で煩いチビちゃんが。
なんで、なんて俺にもわからなかった。多分誰にもわからないことだ。影山飛雄が昨日の夜、交通事故に合って死んだだなんてーーーわかりたくもなかった。





とまあ、死ネタなわけです。ちなみに話聞いた及川さんは泣いてないですし、その後の葬儀に行った後も泣いてないです。岩ちゃんには心配されまくってます。
そしてその後、及川さんのプレーが徐々に乱れてきます。サーブはミスり、トスが合わなくなることも増えてきてだんだんと周りが見えなくなってきてしまいます(視覚的なもので)。及川さん自身わけがわからなかったのですが、ふと相手コートを見てもそこに生意気な天才の姿は無い。もちろんこっち側のコートにもいない。
ーーーーーーなんでだ?という疑問が浮かんだ瞬間、及川さんのプレーが完全停止してしまい、バレーをできる状態ではなくなってしまいます。

そして休養期間という名目でしばらくバレーから離れようとする及川さんの目の前に突如現れたのは、北川第一のジャージを着た小さな飛雄でした。





「バレーしましょう!及川さん!」

突如現れたそいつに、俺は言葉を失う。幻聴だ、幻覚だ、幽霊だなんて見たことないしこんなにはっきり足まで見えるわけがない。疲れているんだ、だからこんな、

「及川さん、バレー!」
「うっさい黙れ」

そいつはどこまでも響き渡る声でバレーバレーと言って迫ってくる。なんだこれなんだこれなんなんだこれ!!!!
死んだ後もバレーしたいとか、どんだけバレー馬鹿なのこいつ!!!!





その後小さい飛雄と及川さんのほのぼの生活が始まります。ちなみにこの飛雄は及川以外に見えてないです。それを自分でもわかっているため、バレーができるのは及川さんだけだからとバレーバレー言ってます。
及川さんは、そんな飛雄を無視してます。でも一向に離れないから絆されてはいます。←
でもこの飛雄には今までの“影山飛雄”の記憶がなく、気付いたら及川のとこにいて、及川が凄い選手だということだけはわかっているといった状態。なので日向の事もわかりません。(北一ジャージなのはそのせい)

ちび飛雄と過ごしていく中で少しずつ少しずつ精神も回復していった及川さんでしたが、バレーをすると頭から離れない“天才”の姿が浮かんでしまい、どうしてもプレーができず怖いとさえ思ってしまいます。
バレーをするのが怖い(飛雄を思い出してしまうから)。だからもう辞める(いないとわかっているのに、それを受け止めるのが辛いから)。

しかしそんなこと知らないちび飛雄は影山飛雄よろしく空気なんて読まずに及川さんにバレーやろうバレーやろうと言いまくるよ!
それについにキレた及川さんは、バレーなんてもうしないしお前の姿なんて見たくもない!消えろ!と言い放ちます。しかしちび飛雄は縮こまりながらもバレー、と言います。(理由はありますちゃんと)

及川さんはもういい、と言って家を出ます。しばらくお前なんか見たくないし。そう言って出ていった及川さんが出会ったのは牛若でした。
そこでまぁいろいろ話して、及川さんは初めて自分の気持ちに気付きます。そして急いで自分の家に戻りますが、扉を開けた先にちび飛雄の姿がなく、焦る及川さん。
自分が消えろと言ったせいでいなくなったのかと思い、違う、とか待ってとか言って混乱していると、小さなクシャミが聞こえて、ベランダの窓が空いてることに気付きます。慌てて外に出ると、そこにちょんと物置と化したちび飛雄の姿が。




「お前、幽霊の癖にクシャミとかするんだ?」
「知りません。俺は今、物置です」
「......なんで、そんなとこいんの」
「及川さんが消えろって、俺の姿見たくねぇって言うから...でも俺消え方とかわかんねーし姿見せないよう隠れるにしてもこの部屋隠れる場所少ねーし、だったら物置になっときゃいいかなーって...」
「バカ...いいわけないでしょ」
「及川さん?」
「お前、またいなくなったのかと思って焦った。心臓止まった。消えろとか、嘘だし、わかれよそんくらい」
「.........うす(また?)」
「二度と急に俺の前からいなくならないで。飛雄、」


ーーーごめんね。小さく吐いた言葉と共にそこにある体を抱きしめた。体温なんてあるはずないその体はとても冷たく、それが妙に及川の頭を冷静にさせていった。

(嗚呼、こいつは飛雄だけど、飛雄じゃないんだ。だって、俺の知ってる飛雄はーーー)



「死んだんだ、俺の好きだった人」

物置になっていた飛雄を部屋に入れ、ソファに2人で腰掛けると同時に及川は話し出した。
その目線は横に座る影山にではなく、どこか遠くを見ていた。

「...正確には、まだ好き...というかさっき気付いたんだけど」

ぽつり、ぽつりと言葉を繋ぐ及川は初めて見たな、なんて影山は思う。そんな記憶、自分にはないはずなのに。及川という男はいつもはきはきと、言葉をぶつけて来るという印象があったから。

「糞生意気な奴でさ、可愛くないのに可愛くて、ぶっ潰したくなる天才で」
「大嫌いだって、思ってたのに、突然そいつが俺の前から消えて、俺はでも、悲しくなんてないはずなのに、」

飛雄が死んだ。そう聞いた時も、葬儀に行った時だって泣いたりしなかった。泣くのを抑えていたわけじゃない。ただ、実感がわかなかった。自分でさえもわからなかったのに、岩泉は気付いたんだろう。だからあんなに心配されたのだ。
俺が、悲しんでるって事に。

「コートに立つと、わかったんだ。そいつがいないってこと。いつも俺を見てくるその目が、視線が、どこにもなくて、いるはずなのに、いないんだ」

そして、プレーが止まった。なんでここにあいつがいないのか、ぶっ潰したい天才は、ずっとコートの中にいたはずなのに。
そこに、お前がいないだけなのに。

「なのに俺は、コートにいて、いない奴探すとか、馬鹿みたいじゃん。わかってるのに、わかりたくなくて、」

だから、辞めることで逃げようとした。バレーから。自分の気持ちから。影山飛雄から。

「好きとかも、気付いたのはさっきだけど、多分もっと前から、好きだった。あいつの目が、俺にずっと向いてればいいとか、馬鹿みたく思ってたし」
「好きだった、好きだったんだ。好き、で...」

もう会えない。好きとも言えない。それが、今、はっきりとわかったんだ。
ぽたり、ソファに水滴が落ちる。広がる染みは増えていき、止まることはない。
好きだ、と誰に伝えるでもない台詞を言いながら影山飛雄が死んでから初めて、及川は涙を流した。



ちび飛雄は黙って話をずっと聞いてますし、及川さんが泣いてるのを黙って見てます。
自分の目からも、涙が出てる事は知らずに。


続きます。

2016/11/15

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