\自由に生きてる/


●毎日誰かのBirthday!

急がなきゃ!急がなきゃ!早くしないと始まっちゃう!
大きな時計を首から下げた白ウサギの鴇時は森の中を大急ぎでかけていきます。いつもならば我が儘で横暴なハートの女王が開く裁判に遅れないためですが、今日は違います。この森の住人の1人、帽子屋こと露草が開くお茶会に招待されたのです。鴇時はそれはそれは喜び、女王が今日はぐっすり寝ているため裁判が無いことを確かめた上、大急ぎで森へと出かけました。遅刻しない事は元より、誰よりも一番に着くために。
何故かって?そんなの決まっているじゃありませんか。一番最初に露草が入れてくれる紅茶を飲むためです。
そのためには誰よりも早く、誰よりも先に着かなければならないのです。
タッタッタッタッ
時折時間を確認しながら鴇時は森を突き進みます。お茶会が始まるまでもう少し。
タッタッタッタッ
そうして見えてきた家の屋根に、鴇時の顔が緩みます。もうすぐ会える、そう心の中で呟き目の前に迫った家戸を勢いよく開きました。

「露草!来たよ!」
「おー鴇、やっと来たか」
「ずいぶんと遅かったね、また遅刻しそうになったの?」
「貴様が最後だぞ!鴇!」

そして固まりました。えっ?あれ?と頭の中がパニックになります。持っていた時計を確認しても、お茶会はまだ始まってもいないのに既に皆が集まっているではありませんか。
てっきり早かったな鴇、という声が聞けるかと思いきや、自分が最後だなんてそんな馬鹿な。

「っていうかなんで!女王がいるんだよ!寝てたはずだろ!!」
「様をつけない無礼者は首を跳ねることになるけど、覚悟は出来てる?」

ニッコリ。ハートの女王である梵天が笑います。いや出来てませんけど。ていうかなんで本当ここにいるの、寝てたじゃん!俺より先にいる意味わかんないんですけど!
鴇時が梵天から視線を反らすためテーブルを見渡すと、ハートの女王の他に来ている物は3人。煙パイプをふかした芋虫の篠ノ女に、神出鬼没の気まぐれ屋チェシャ猫の朽葉、そしてここ最近になり不思議の国に現れた小さな少女。名前は確かーーー

「おうお前ら、集まってるな」
「露草!」
「あ、真朱も来たのか」

そう、真朱です。どこからか来たその少女は、可愛らしい水色のワンピースの上にヒラヒラのエプロンを着けて一番初めのテーブルにちょこんと座っています。
ということはあの子が一番最初に来たようです。正直ハートの女王ではないことに鴇時は安心しましたが、女王である梵天は面白くなさそうな顔をしております。

「露草に会いたくて!」
「あぁ、そうか...じゃあ今日は楽しんでってくれな」

前言撤回、安心なんてしていれません。意外と少女は大胆な子のようです。そしてそれを、女王は知っていたのでしょう。眉間にシワがよっています。

「ところで露草、今日はなんでまたお茶会を開いたんだい」
「あ?つーかお前呼んでねぇのになんでいんだ梵天」
「いいだろう別に俺がいたって」
「女王様は城で寝ていてくださーい」
「なにか言ったかい?青虫君」
「ベツニナニモ」

バリバリバリバリ梵天と篠ノ女の間で火花が散っています。そんなことを気にすることもなくテーブルの上に置かれているクッキーをむしゃむしゃと食べている朽葉。さすがチェシャ猫。まだお茶も入れてないのに自由すぎます。
それにしても、このお茶会を開いた理由は何でしょう。確かに気にはなったので鴇時が露草に問いかければ、帽子屋はティーポットを持ち上げ意気揚々に言いました。

「どこかの誰かの誕生日を祝う日だからだ」

そうして始まったお茶会は、時間を忘れるほど楽しく続いたとか。


●お菓子を作ろう

小麦粉、バター、卵に牛乳etc...。材料は揃った。あとはこれを混ぜて焼いてあーしてこーして。
そうして出来上がったお菓子は見た目も酷ければ味も酷く、露草はその場に項垂れ何度目かの溜息を吐いた。

どうしたって上手くいかない。何度やっても不味いお菓子。クッキーマフィンケーキにタルト、全滅だ。紅茶や珈琲は上手くできるのに、料理になると点で駄目になる。失敗したお菓子とそれを作るために汚したキッチンを眺めては溜息しか出てこない。
(なんで帽子屋が俺なんだよ...!)
しまいには自分の設定にまで文句をつける始末である。しかしどうしたって、うまくいかないものは上手くいかないのだ。大変困った。
近々開くお茶会には、森の住人を招待している。中には食い物目当てのチェシャ猫だっているのだ。菓子は必要だろう。招待する側としては自分で作らなければ駄目だろうが、でもこの有り様だし。

どうしたものかとうんうん悩んでいるところ、戸をノックする音がする。誰だこんな時にと舌打ちをしつつも、そちらに向かい扉を開いた。
ーーそこにいたのは可愛らしい少女だった。

「遊びに来たよ!露草!」

ニコニコと元気よく笑う少女を見て、露草は閃いた。そうだ、教えてもらえばいいんだ。

「真朱、お前お菓子作るの得意か!?」
「お菓子?うーん、私より、兄様のが得意!」
「お前の兄貴...?」




ーーーその後、無事に行われたお茶会では、それは美味しい和菓子が出てきたとかなんとか。


●ハートの女王は嫉妬深い

気に入らない事があったら即裁判。
判定は有罪しか認めない。
刃向かう奴は即首跳ね。
我が儘横暴だなんて知ったこっちゃない。
俺がルールだ、俺が不思議の国の女王。一番偉い立場にいる。

...にも関わらずだ。俺に刃向かう奴がいる。気に食わない態度も思い通りにならないのも腹立たしいが裁判にも首を跳ねる事も出来ない人物がいる。帽子屋の露草だ。
あれの周りは最近賑やかで実に腹立たしい。
どこから来たのかわからない子供と仲良くし、最近招かれた(露草は招いてない)茶会ではあれらしからぬ菓子を出していた。
白ウサギとも交友関係になったり、どこぞの青虫にも絡まれている始末。見ていてイライラする。
...............イライラ?


「なんで女王がこんな所に来るんだよ」
「イライラするから」
「はぁ!?」

何だそれ、露草が怒鳴った。こいつはいつも俺に対してこうだ。様を付けないし口も悪い。でもそれがイライラする理由ではないので首は跳ねない。

「これ飲んだら帰れよ」

テーブルに一杯の紅茶が出された。俺好みの匂いがしてイライラが少し和らぐ。

「あ、菓子もいるか?」
「いらない」

あの変に甘い菓子が一瞬頭をよぎって即答した。またあんなものを出されたらと考えて、和らいだはずのイライラが再び現れる。
別に不味かったわけじゃない。普通に美味かった。ただ、露草にしては変わったものを作ったのだと不思議に思ったのだ。そして、真朱という子供が嬉しそうに露草に笑っていたこと。それだけで察しがついた。お前が一人でこれを作ったわけではないと。
その時現れた黒いモヤモヤしたものは、未だに俺の中にある。気分が晴れないような、黒い感情。気を紛らわすように紅茶を一口啜る。美味い。

「少しは気ぃ晴れたかよ」

テーブルの向かいにいる露草と目が合う。いつもは睨むような視線が、今は少しだけ和らいでいるのがわかる。とくん、と胸が鳴った。
イライラがいつの間にか無くなっている。露草の入れてくれた紅茶のおかげだろうか。続けて紅茶を啜る。あぁ、なんだか落ち着く。

ふと、頭に浮かんだ事がある。こいつの首を跳ねることが出来ないのなら、こいつに手を出す輩に制裁を与えればいいのではないか。そうすれば、こうしてこいつの入れるお茶を飲めるのも俺だけになるのでは。こいつが見るのが俺だけに出来るのではーーー

「あっ...」

気づいたらカップに入っていた紅茶が無くなっていた。考え事に夢中になっていたせいだろうか。
せっかく露草が俺のために入れてくれたのだ。まだ時間もあることだし、もうしばらくここにいさせてもらうとしよう。
おかわり、とカップをさしだせば、いや帰れよと目の前の男は苦々しく言い放った。
無礼な態度のはずなのに、こいつの首が飛ぶことは無い。


●三日月ウサギを探して

「露草が帽子屋だといかれてる感が無いよね」
「なんだそれ」
「だって不〇議の国の〇リスじゃそうとうなはっちゃけぶりだよ、帽子屋って」
「あ?そうなのか?」
「まぁ、うん。あ、そういえば三日月ウサギがいないよね帽子屋とセットな感じもするから平八さんか空五倍子さんあたりが妥当な配役かな?」
「三日月ウサギ...?」
「帽子屋と一緒にお茶会してるウサギだよ」
「お前もウサギじゃねぇか」
「俺は白うさぎ!ほら時計持ってるでしょ!アリスが追っかけてくるためのウサギ!」
「......(違いがわかんねぇ)」
「ちなみに露草の希望は?」
「希望?」
「三日月ウサギを誰かやるとしたらだよ。誰がいいとかないの?俺でもいいよ!」
「お前は白兎なんだろ」
「そうだけど......露草と一緒にお茶会もいいなーとかおも「じゃあ白緑」
「はいはい知ってたよ!!!!」


●深い意味は無いのでして

お茶会が開かれる度に、鴇時は思う。こいつらはいったいいつここに来ているのだろう。
テーブルに座る面々はいつもと変わらないメンバーだ。ハートの女王にチェシャ猫、芋虫に小さな少女。そして白ウサギである俺を入れた5人。
今日こそは一番にと急いできたのに、結果は芋虫と同じくらいだった。ちなみに既にいたのはハートの女王と真朱で今日の最後はチェシャ猫だ。一番初めの席には今日は女王がいた。なんでお茶会に呼ばれてもいない奴が1番最初に来てるのか、謎である。
俺はその女王と芋虫に挟まれた席に着く。目の前にはソワソワしている可愛らしい少女とお腹の音を隠そうともしないチェシャ猫が座っていた。

そうして始まったお茶会は、毎度のことながら賑やかだ。相変わらず露草の入れてくれる紅茶は美味しいし、お菓子だって作る度に上手くなっていっている。ずっとこの時間が続けばいいのになぁなんて思いながら紅茶を飲む。やっぱり美味しい。

「露草の入れてくれる紅茶を毎日飲めたらなぁ 」

素直な感想を言っただけだ。そこに邪な気持ちも深い意味もなかった。だというのに、女王からは脇腹に肘打ちを、芋虫から頭にチョップをかなり強い力でされた。かなり痛い。
そこに露草の、流石に毎日はお茶会なんてしねぇよという声が聞こえた。残念だな、と思う反面それならばお茶会抜きで俺が露草に会いに来ればいいのでは、という考えは流石に言わないことにした。
次にまた両側から何をされるかわからないからだ。

今は楽しいお茶会の席。心ゆくまで楽しい時間を過ごしましょう。







真朱の兄様はもちろんあの方、ハートの女王は無自覚片想い、三日月ウサギもいてほしかった、鴇がお茶会一番になることは一生ないというお話でした。

2016/03/01

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