■夏祭りに行きましょう(鴇露)
蒸し暑かった梅雨が明け、毎日のように降っていた雨が嘘のようにカラッと晴れ渡る青空と、鬱陶しいくらいに暑い太陽。 嗚呼夏が来たなぁなんて脳天気に思っていたら、いつの間にか夏休みに入り、気付けば8月も終わりに差し掛かっていた。山積みのまま手を付けていない宿題のことはこの際置いておこう。それよりも大切なことをやり残したまま夏休みを終わらせるなんて、鴇時には考えられなかった。
急いでカレンダーを確認すれば25日――もう今日になるが、そこに赤いペンで花丸印が書かれてあった。それを見て直ぐに携帯を取り出す。 アドレス帳の一番最初の人物に電話をかければ、数コールした後に耳元から「何だよ」と気だるそうな声が聞こえてきた。
「露草、一緒に夏祭り行こう!」 「断る」
ブツ。ツーツー。携帯から聞こえる無機質な音に、耳から離して画面を見ると通話時間が僅か8秒と出ている。 相手が出て、夏祭りに誘って、断ると即答されて、8秒。 …………………はい?
「断るって何断るってどういうこと断るってなんでええええ!!??」 「うっせーーーー!!」
あまりにも一瞬の出来事に頭の中で整理もできず、リダイヤルをして相手が出たのを確認した後に大声で思いの丈を鴇時は吐き出した。 それに返ってきた言葉は五月蝿いである。
「行きたくないから断ってんだろ!んなこともわかんねぇのかバーカ」 「なんで!行こうよ!!一緒に出店回ってかき氷食べたり焼きそば食べたり綿あめ食べたり」 「腹減ってるのか?」 「そうじゃなくて!!あとほら、金魚すくいとか射的とかやって、最後は一緒に花火見て」 「人多い五月蝿い疲れるお前1人で行ってこい」 「…露草、さすがに泣くよ俺」
露草から浴びせられる言葉に、いつも弄られて慣れている鴇時と言えどさすがに傷つく。 ―否、露草だから傷つくという表現が正しいだろう。手をつけてない宿題をやることよりも、それ以外の何よりも、今は夏祭りに露草と一緒に行きたいのだから。
「……じゃあ誰かと行けよ」 「誰か、なら露草がいい」
露草と、行きたい。ゆっくりとした口調で鴇時がそう告げれば、電話越しで露草の舌打ちが聞こえてきた。 …これはもうあれだ。あれをやるしかない。
「行きたい行きたいねぇねぇ行こうよ絶対楽しいからさぁ露草ぁお願いします夏休み終わる前に露草との思い出が欲しいです一度も露草と会ってないんだよ!?一回もだよ!?俺達付き合ってるのになんで?おかしいよこんなのねぇつゆく「だあああああわかったよ!行きゃいいんだろ行けば!」 「本当!?やったー!」
必殺泣き落としである。実際は泣いてなんていないが最終的にこうすれば露草は大体折れてくれる。 ぐっと拳を握りガッツポーズをして喜んでいる鴇時の姿を、電話越しの露草が知るわけもないが。
「でもお前の奢りな」 「う…わかった」 「あと、」
まだ何か要望があるのだろうか。幸い、お小遣いを貰って財布の中は暖かくなってはいるが。
「……つ…に………えば、…だろ」 「?露草?」
先程までズバズバとはっきり話ていたのに、急にボソボソとしゃべり出すので、電話越しだと聞き取り辛い。 多分電話越しじゃなくとも聞き取り辛いだろうが。
「だから、……………普通に…言えば、いいだろ」 「へ?」 「……っ、会いたいって普通に言えば、いいだろ、…別に、会いたくないわけじゃ、ねぇ…し。いいい一回しか思い出作る気ねぇならそれでいいけどよ!!!!」
ブツ。ツーツー。携帯から聞こえる無機質な音をしばらく聞いて、ゆっくりと耳から離し画面を見た。 先程の僅か8秒の通話時間を遥かにこえた時間がそこに表されている。
(…っ、反則、だ!)
携帯を握りしめてその場にしゃがみこむ。左手でにやける口を防いだところで耳が真っ赤なのは隠せない。 耳元であんなダイレクトに嬉しい台詞を聞くことになるなんて、8秒で通話終了した時には思いもしなかった。嬉しすぎて、顔が赤くなるのも口元が緩むのも仕方ないことだろう。 露草はずるい。あんな言い方されて、黙っていられるわけがないじゃないか。
(一回でいいわけないだろ!)
立ち上がり、鞄を引っ付かんで急いで家を飛び出した。夕方になろうが明るい空の下を全速力で走る。暑いけれど関係ない。 ―――早く会いたい。 今日も明日も明後日も、夏休みが終わるまでの全部の時間、終わってしまった夏休みの分まで、俺は君に会いに行く。
終わり!だらだらと長ったらしくなりましたすいません。この後2人で夏祭り行って楽しんだんだと思います。 鴇露ワッセーラー!
2013/08/02 |