帰ろうと歩き出したところ、目の前を何かが通った。
通ったというより、倒れてきた?
何事かと下を見れば……
どこかで見たことのある後ろ姿が床に突っ伏している。
コーヒー牛乳のような髪色の男子生徒。
「ごめん、事故なんだ……バイト代入るまで待ってェ……」
わぁ、すごい、お尻で会話してる……。
「いいよ雪子!花村なんて放っといて帰ろうっ!」
ショートカットの女子生徒が怒りながら教室を出て行く。
その後を続くように、黒髪ロングヘアー綺麗な女子生徒と、
灰色の髪の男子生徒が、突っ伏している男子生徒を一瞥して出ていった。
(……さすがに、私まで放置するのは良くないかな)
体を屈めて話しかける。
「あの、大丈夫ですか?」
「う……、大丈夫です……」
突っ伏したままピクピクしている姿は大丈夫そうには見えない。
起きれますか、と体を支えて立ち上がらせる。
(あれ?この顔……。)
「花村陽介くん?」
「え、なんで俺の名前を?」
そうか、前髪を伸ばして顔を隠しているから、わからないのか。
「あ、私です。桜庭架音です。久しぶり」
「げっ……」
ゲッて。久しぶりに会った人間に対してそれは流石に酷くないだろうか。
反応に戸惑っていると
「何か用かよ」
若干、怒気を含んだ言い方で話しかけられた。
こんな対応されるような事をしただろうか。
「えっ……と、諸岡先生に用事があって、もう用は済んだんだけど……」
先程からの態度に戸惑ってしまい、上手く話せない。
「あっそ。おつかれー」
どうしたものかと迷っているうちに、彼は教室に置いてある鞄を持って、
さっさと帰ってしまった。
取り付く島もない、というのは正にこの事だと痛感した日だった。